王妃

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「注意して、レクス。あんなんでも取り巻きは多いのよ」 側妃の私とは違う、正妃の姫、圧倒的な美貌。クリスティナに取り入って、その権力のおこぼれを欲するものは多いから。 そして声のする方向に近付いて行けば、侍女に向かって怒鳴り散らすクリスティナの姿がある。 「もとはと言えば、あなたがちゃんとアイスクォーツ公爵さまに取り次ぎをしないからじゃないの……っ!」 侍女に当たり散らすところは相変わらずだわ。 「申し訳ありません、申し訳ありません、クリスティナ王女殿下……!」 そう言って頭を下げているのは……あの金茶の髪。どうやらかつて北部にアイスクォーツ公爵を訪ねて来た侍女で間違いなようだ。 「いやぁ、彼女が頑張ったところで、うまくは行かなかったと思うよ?」 副団長さんがポロリと漏らす。やはりその予測は正しかったようだ。 「……ったりめぇだ」 レクスもそれには完全同意なようである。 しかしこのままクリスティナの癇癪が終わるのを傍聴していても、日が暮れるだけだろう。 「クリスティナ!見付けたわよ!」 今は、ひとりじゃない。ただ黙って耐えるだけの私でもない。 そして、レクスも一緒である。 「な……何でシェリカがここにいるのよ!それに……アイスクォーツ公爵……っ!私に恥をかかせて、おいてよくものこのこと顔を出せたものね!」 キッと私を睨んだクリスティナは次にレクスに気が付き、レクスを指差し叫ぶ。いやいや、レクスの顔はちっとも隠すものではないわよ。 あと、それはこちらのセリフである。 「みなのもの!私に恥をかかせた挙げ句、城に侵入したこの無礼者たちを今すぐ捕らえなさい!」 クリスティナが近衛騎士に叫ぶ。 「はぁ?正気かよ」 「私に至っては実家なのだけど」 侵入とか呼ばれる筋合いではない。嫁ぎに行った相手を実家に連れてきて何が悪い。 そしてクリスティナの言葉に、近衛騎士が集まってくるが、明らかに困惑している。彼らもまた、常日頃クリスティナの癇癪に苛まれているのだから。 だが、続いた声にこの困惑も隠さねばならぬ事態を告げる。 「本当にムカつく面ね。しかも男連れで乗り込んで来るだなんて、全くもって品のない小娘だわ」 そう告げたのは、クリスティナにそっくりな髪を持つ女性……王妃であった。 相変わらず派手な化粧に派手な出で立ち。そして王妃に取り入り甘い汁を啜っている親衛隊まで引き連れて来るだなんて……! どうしよう……完全に囲まれてしまった……! 王妃が加勢したことで、クリスティナが得意気な表情を浮かべ、周囲の困惑する近衛騎士たちも従わざるを得ない状況となった。 北部の猛将と副団長さんがいるとはいえ、多勢に無勢、さすがにこれじゃぁ打つ手がない……? だが、その時だった。 「そこまでにしてもらおうか」 突如降り注いだ声に耳を疑った。そんな……まさか、この声は……!副団長さんを見やれば、その疑問を肯定するようににこりと笑む。 そしてその声の主の功績を知る近衛騎士たちが、自ずと道を開けていく。 「ちょっと、あなたたち、何をして……っ!勝手に動くんじゃないわよ!」 しかし誰も王妃の言うことなど聞かない。だって相手は……王妃の出身である隣国との国境を守る東部の守護神である。 幾度となく押し寄せる海の魔物との戦いだって、この方がいたからこそ守られた。 武術を嗜むもので、この方を知らぬものなどいないし、敬意を示さないものもいない。 「些か、お戯れが過ぎるようだ。王妃殿下」 「お前……っ、エステレラ辺境伯!」 王妃もさすがにその名と顔は知っている。たとえ王妃が近付こうとも、私を守ってくれたユリウス・エステレラ辺境伯さま。……私のかつての婚約者だ。
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