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騎士団
温かい……。
ぬくぬくとした温もりを感じながら瞼を開ければ、そこはどこかの建物の中のようだ。
「あぁ、目が覚めたかい?シェリカちゃん」
見覚えのある金髪に、空色の瞳がこちらを見下ろしている。
「……アセナさん!」
「そうそう。体温はだいぶ戻ったみたいだね」
アセナさんが私の頬にぴとんと指先をつけてくる。
体温の差は……あまりないようだ。
――――だが……。
ふと手を確認する。
「どうしたの?どこか痛い?」
「ちょっと痒みがあるような気がして……」
何かしら、このむずむず感。
「見せて。薬を塗ろう」
アセナさんが私の掌を見てそう提案してくれるものの……。
「だ、大丈夫です!これくらいは……!」
時間を置けば何とかおさまるだろうか。
慌てて手を引っ込めれば。
「いや、早めに塗っとかないとどんどん痒くなって、ゆくゆくは火傷のごとき痛みに魘されることになるよ?」
「ひぇっ!?」
何それ、そんな痒みの話なんて聞いたことないんだけど!?
「……ってことだからさ。素直に手ぇだす」
「は、はいっ」
そう頷けばアセナさんがにっこりと笑んでくれる。
そしてアセナさんが軟膏入れを持ってきて、私の手指にすりすりと塗り薬を馴染ませてくれる。
「痒みはどう?」
「少し、落ち着いてきたきがします」
塗ってもらって良かった。いずれは火傷のような痛みになるだなんて、恐いもの。知らなければ大変なことになるところだった。
「あの、ところでその軟膏は……」
「これ?霜焼け止めの軟膏だよ」
「霜焼け……」
「初めて聞いた?北部ではわりと知られてるんだけど」
王都でも何年かに一度寒波が来たとしても、そもそも寒さの比が違う気がするし、王都では城の中にいることが多かった。
たとえ外に出るにしても、最低限の防寒具は貸してもらえた。
そこら辺に関しては、防寒重視のデザインの防寒具は一般的なもので、クリスティナたちも興味がなかったらしく、うるさくは言われなかったし。
だから、しっかり防寒しないととは言われても、霜焼けになることはなかったのだ。
思えば、恵まれていた部分ももちろんあったのだと思うが。
「言葉だけは、聞いたことがあります。……でも、こんな風になるだなんて思っていなくて」
「ははは。体験しないとなかなか分からないもんねぇ。こっちは寒いからさ。防寒が疎かになったり、討伐の最中に防寒具失ったりすると団員たちもたまにやるんだ。だから気にしなくていいよ」
「は、はい。ありがとうございます……!」
次からは気を付けなくちゃ……。
「そうだ……!あと、治療師や街のひとたちが夕食を作ってるから、直に……あぁ、来た」
アセナさんが振り返った先を見れば。
「目を覚まされたんですね。起きられますか?」
ルカさんが来てくれて、スープボウルの乗ったお盆を枕元に置くと、ゆっくりと私の背中を起こすのを手伝ってくれる。
あれ……そう言えば服は。
「あぁ、服なら寝ている間に私が着替えさせたよ。さすがに濡れていたし、あんな薄着じゃぁ北部では命とりだ」
アセナさんの言う通り……着せてもらっている服はルカさんが着ている治療師の服のようだが、厚みがあり丈夫そうな生地で、体感も温かい。
「あと、ポケットに入っていたポーションはそこだね」
見ればポーション瓶は少し離れた台の上に並べられていた。
「あの……よければ他のも使っていただいても……」
助けていただいたのだし。
「え、いいの?あんな上物!なら隊長にあげとこ!」
「まぁそうですね。肉が裂けてんのにただの擦り傷扱いするあの戦闘バカに渡してください」
せ……戦闘バカ!?た、隊長さんなのだから偉いひとだと思っていたのだが……しかし、にこやかに笑い合う2人に悪意は感じられない。
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