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「じゃぁ、ありがたくもらっとく」
「……はい……!」
あ、そう言えば隊長さんと言えばだ。
「あの、隊長さんのマントは……」
お借りしたものは、どうなっただろうか。
「それなら、隊長に返しておいたから安心して」
アセナさんが教えてくれる。
「でも、破れてしまって……」
破いたのは隊長さんだが、私のためにそうしてくれたのだ。
「予備なら余分にありますから、平気ですよ。むしろ、魔物との戦いでちぎれることもあるので、問題ありません」
それなら……大丈夫だろうか。
「そんで……食べながらでいいけど、シェリカちゃんはどうしてあんなところにいたの?」
びくんっ。
そう、だよね。ルカさんからスープの入ったボウルを受け取りつつも、いいよどむ。
どうやって説明するべきか。
「シェリカちゃんは北部の出身じゃないだろう?」
「え……えぇ。王都から来ました」
先ほどの軟膏の件でも、王都で育った私にはあまり馴染みのないものだった。
「それでその……。私は公都に行かなくてはならなくて」
「公都……?」
公都は、公爵領の中でも公都の領主城のある場所で、国の要所であるがゆえ、王都とは別に【都】と言う呼称が許された場所だ。
「その……嫁ぎに……行かないといけなくて」
「嫁ぐ!?」
「この時期にあんな薄着でですか?その嫁ぎ先は一体何をしているんでしょうねぇ」
うーん……その、アイスクォーツ公爵家なのだけど……。それは言わない方がいいだろうか。
「まぁ公都までは私たちに付いて来ればなんとかなるだろうけど……迎えにすら来ない家になんて嫁ぎたくないわよねぇ。でもま、うちも公爵お抱えのアイスクォーツ騎士団だし、何かあったらうちの団長も隊長も、力になるから大丈夫だよ」
「……それは」
その輿入れ先が騎士団の主の公爵なのだけど。
でも、とにかく公都までは向かわなくては。そして隊長さんやアセナさんたちの迷惑にならないよう……、公都に着いたら公爵さまに会わなくては……!
「その、公都まで、よろしくお願いします……!その、ポーションとかなら、作れます」
「え?じゃぁもしかしてあのポーションも……?」
ルカさんが並べられたポーションを指差す。
「じ……自分で作りました……!」
「ふむ……そうですねぇ……まぁ、いいでしょう。それではそちらをポーション作りなどの裏方を手伝っていただくということで……!」
「じゃぁ隊長にも伝えとく。そこら辺は任せて」
「は……はい……!」
同行させてもらえることになって、良かった……。
「それから、討伐は数日続くと思うから、その間はルカに付いてるってことでいいかな」
「えぇ、もちろん」
ルカさんが頷いてくれる。
「魔物の巣をもう少しで潰せるから、それからは残党狩りをすれば終わりで公都に帰還できるから。それまでもう少し待っててね」
アセナさんは簡単に言うが……魔物の巣。それは魔物が湧き出るポイント。どういったメカニズムかは未だ不明だが、北部には頻繁に魔物の巣が見つかるから、それを潰して魔物を討伐しないと無限に魔物が湧いてしまう。
それが北部が国の要所と言われる理由である。
だがしかし、魔物が湧くからこそ魔石などの珍しい資源も手に入る。だからこそ人も住み、そして魔物を討伐する騎士がおり、ここをアイスクォーツ公爵が守っているのだ。
しかし魔物との戦いは命懸け。
「私も……頑張ります……!」
私にはポーションを作るくらいしかできないけれど、助けてくれて隊長さんや、迎え入れてくれたみなさんの役に立ちたいもの。
「それじゃぁ、よろしくね」
「はい……!」
夕食のスープを飲み終えれば、今日はさすがに休むようにと言われ、床についた。
※※※
――――翌朝。
私は朝起きて、朝食の準備を手伝いに入っていた。ここは討伐区域に一番近い街で、騎士団の駐屯地がある。
その駐屯地内に、公都から派遣されたアイスクォーツ騎士団も逗留しているのだ。
そんな駐屯地では、騎士たちが慌ただしく動いている。
「ルカさん、もうみなさん出られるのですか……?」
「えぇ。隊長たちは準備のために早めに出立しますよ。私たちはこれからご飯ですが」
ルカさんがそう教えてくれる。確かに防具や武器の用意もあるわよね。
すぐそこで装備を整えている隊長さんやアセナさんを見やる。
「あと馬の調子もね。早朝に私も診ていますが、何せ軍馬なので」
ここで言う軍馬は、北部や魔物の多い地域で多く飼育されている馬で、魔物の遺伝子を組み込んで魔物への耐性を上げた魔獣である。
魔獣であるので、その速さも桁違い。王都から私を乗っけてきた馬車に繋がれていたのも恐らくは軍馬だ。そうしなくてはこの北部へは渡れまい。……生き残ったのは一頭だけだったと言うけれど、馬だけで魔物から生き残るのは難しい。騎士がいなくては。
「それじゃ、行ってくる!」
アセナさんが手を振ってくれるのに手を振り返せば……一瞬隊長さんとも目が合った気がした。昨日の怪我はポーションで治ったし……もう平気そうだから大丈夫だろうけど。
「魔物の巣……」
危険な場所だ。大丈夫だろうか。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。何せ隊長がいますから。あの人がいれば、必ず勝てます」
私の心配を読み取ったのか、ルカさんが声をかけてくれる。
隊長さん……強いんだ。いや、その強さは昨日身に染みて知った。
隊長さんが気付いてくれなかったら、私は……。
ううん、今はまず、私にできることを……しなくては。
「あの……明日は隊長さんたちのご飯も……お手伝いしたいです」
「……それは助かりますよ。では明日からは是非お願いしますね」
「はい……!」
せめてアイスクォーツ公爵さまにお目通りできるまで、せめて。
私は私で、できることをしたいのだ。
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