後方支援隊

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後方支援隊

騎士たちの出発後、私はルカさんと一緒に朝食をいただいた。朝食は野菜とお肉の温かいスープとパンとホットミルクである。王都では柔らかいパンが多かったけど、こちらでスープやホットミルクにつけて食べる硬めのパンも美味しいかも。 「お味はいかがですか?」 「とても美味しいです」 ルカさんの問いにもちろんと頷く。 こちらは街の奥さま方も来て作ってくれたもので、初めての味なのに何だか懐かしいような感覚に陥る。 「物資のこともあってたくさん……とは言えませんが、しっかり食べてくださいね」 「えぇ、もちろんです」 せっかく作っていただいたものだもの。 しっかりと腹ごしらえを済ませれば、次はルカさんに連れられて昨日の施療ブースに向かう。 そこでは治療師やその他物資補給部隊と見られる団員たちがせわしなく動いている。 定期的に物資の運搬に行く部隊もあるようで、防寒具や鎧の確認をする団員もいる。 「ではシェリカさんにはこの後、後方支援部隊のお手伝いをしていただきたいのですが……まずは1本作ってみてください」 「はい……!」 材料は最低限のようだけど、冬の北部ではポーションや薬の材料が貴重だと聞く。無駄にしないように、気を付けよう。 「できました……!」 基本の黄緑色のポーションである。 ポーション瓶の模様もしっかりといつもの模様を出してくれている。 この世界では、出来上がったポーションによって、瓶の色や模様が変化する。 因みに味にも影響が出る。緑は苦く、赤は辛く、青は不味く、水色はほんのり不味い。黄緑色は少し苦味があるが、飲みやすい。 かけて使うならどれも色は関係ないが、基本のポーション以外は飲むときに要注意である。 「材料は最低限なのに……このできとは……」 「あの……っ」 いつものように調合したけれど、何かまずかっただろうか……?上手くできたと思ったのだが。 「いえ、悪いわけではありません。よすぎるんですよ。昨日のポーションと同じく」 「え……っ」 今までそんなに褒められたこともなく。ただ作ったポーションを王宮の治療院に引き取ってもらっていたのだが。 「もしかしたら……付与魔法が使えるのかもしれませんねぇ」 「付与魔法……ですか?」 それは初耳である。今までも言われたこともなかった。 「でも、使えるものは使いましょう。この時期は本当に材料が不足するので。これはこれでありがたいですから」 ルカさんがにっこりと笑う。 「そうそう、嫁ぎ先がやはりろくでもなければ騎士団に逃げ込んでいただいて大丈夫ですよ。こんな優秀なポーション職人、なかなか手放せませんから」 うぅ……それは心強いのだが。ますます嫁ぎ先が公爵さまだといいにくくなってしまった気がするわね……。 「面倒なことはババーンと隊長が何とかしますからね」 うーん……そうは言っても相手は公爵さまである。いくら隊長さんでも……迷惑がかかるだろうな。 ――――でも……冷酷公爵と呼ばれる方でも、北部の地を守る猛将であることは確か。ポーション作りくらいは許してもらえるだろうか……。 しかし……公爵さまに会いに行くとしても、まずはここでできることをしなくては。 そしてルカさんが私を後方支援部隊のみなさんに紹介してくれる。 「今日からこちらをお手伝いしてくれるシェリカちゃんです。みなさんよろしくお願いしますね」 「わぁ、よろしくね!シェリカちゃん」 「女の子だー、かわいい!」 「あーでも、副団長だけは独身だけどダメよ?あの男顔がいいだけだから」 最後の忠告は何ですか、治療師のお姉さん……!? でも早速歓迎してくれるのは……それはそれでありがたいなぁ。 「それでは新たな仲間が加わったところで……じゃじゃじゃーん、今回の補給物資ですよー!みなさん、拍手!」 ルカさんがじゃじゃんと物資の積まれた箱を指し、そしてパチパチと拍手するのだが。 『ぎゃぁぁぁぁ――――っ!!!』 ――――何だろう、この悲鳴。拍手とか言う前にみんな頭を抱えてしまったのだが。 「うぅ、覚悟していたとはいえこれだけとは。ルカ、公都からはどうなの?」 お姉さんのひとりが物資を確認しながら問う。 「大雪でだいぶ予定が押してるんで、夕方になるそうですよ。ヘレンさん」 「んー……雪なら仕方がないか。周辺の街からもらえるだけもありがたいわね」 ヘレンと呼ばれた治療師のお姉さんが頷く。 「そうそう。感謝して使いましょうね」 この物資は周辺の街からなのか。 食料や治療物資、それから防寒具や追加の武器……魔法石まであるようだ。これらを後方支援部隊のひとたちに教えてもらいながら捌いていく。 「前線に送るもんは仕分けたから、これは早速運んで」 「オッケー」 前線に直接送るものもあるのか。朝充分に持って出たとはいえ、激しい戦いでは消耗も激しいだろう。物資を取り分けると数人の団員たちが外に出る準備を始める。 「北部の民も寒いのはもちろんですが、魔物から守ってくれる騎士団が戦えないと、今度は自分たちも危ないので最低限の物資を供給してくれます。あと、今回の魔物の巣は王都側に近いので、ここを何とかしないと、王都からの物資も届きません」 ルカさんが見せてくれる地図を確認する。北部のアイスクォーツ公爵領は、公都を中心に街が点在している。そしてその回りにも北部の貴族たちが治める領地があるのね。その中でもアイスクォーツ公爵領は一番の広さを誇る。 そして……現在地はココ、とルカさんが指差してくれた場所は確かに王都側である。 ――――とは言え王都までは小さな領地などもある。でも王都側で魔物が蔓延っていれば周辺の領地にも商人が来ないから物流が止まってしまう。 「まぁでも、公都からも吹雪が止んだのを見計らって順次くるので、それまではこれで乗り気って……足りない分は付与しましょう!」 「は、はい……!でも……あまりやり方などは分からなくて」 「では実践あるのみですね。いろいろ作っちゃいましょうか!」 「は、はい……!」 作成するのは凍傷ポーション、霜焼けポーションなど、寒い北部ならではなポーションらしい。材料が足りないところは、付与魔法で増強するのだが。
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