仕組まれた輿入れ

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仕組まれた輿入れ

――――アメシスタ王国・王都。 今日も今日とて、王城内は騒がしい。何故かと言えば……その原因を見やり溜め息をつく。 「嫌よ、嫌……!あんな野蛮な噂ばかりの冷酷公爵に嫁ぐだなんて冗談じゃない!」 「……またか」 本人に聞こえないようにボソリと呟く。 第2王女のクリスティナが癇癪を起こしている。 「私はもっとイケメンで優秀で、野蛮じゃない完璧な殿方がいいのに!……と言うか、シェリカはっ!?あいつの方が誕生月が早いんだから、シェリカが嫁げばいいじゃない!!」 全く……。確かに私の方が誕生日は先だが、こじつけにも程がある。自分が嫌だからって、何でも私にやらせたり押し付けたりするのだから。 しかし今回ばかりはそうもいかないだろう。だって私には……。 「しかしシェリカさまはもう輿入れの日取りが決まっておられます……!」 そう、なのよね。クリスティナを宥めるように告げた、青髪の侍女の言う通りだ。そして日取りが決まっている以上は、王命で認められた婚約者がいるわけである。それもクリスティナよりうんと早く決まっていた婚約。 後は私が18歳になるのを待って籍を入れるだけだったのである。 その反面、クリスティナはご覧のような性格だから、なかなか婚約者が決まらなかった。そんな最中での、もう嫁げる年齢になるのだからと国王陛下から命じられた輿入れの話だったのだが……。 しかも、クリスティナの怒りはそことは別の方向に飛んでいく。 「うるさいわね!あんな妾子に『さま』なんて付けんじゃないわよ!あんた……あいつの手先か何か?お母さまに言い付けてやる……!」 確かに私は側妃であった亡きお母さまの娘だが、王女として国王陛下に認められている以上、私が王女と知っていながら呼び捨てにすれば、今度は青髪の侍女が罰せられてしまう。だから彼女は当然のことをしたまでなのだが、クリスティナはそれすらも許せないらしい。そして最大の切り札であり、敵に回したくはない彼女の母親である王妃の名を出した。 「そんな……っ!それだけは……っ」 さすがに不味いと感じたのか、青髪の侍女がクリスティナに泣きすがるが……。 「うるさいわよ!」 「きゃっ」 ゲシッ クリスティナが無慈悲に青髪の侍女を蹴り飛ばす。 「この不敬な女を連れて行きなさい!」 「……かしこまりました。第2王女殿下」 近衛騎士もその横暴に渋い顔を浮かべながらも、そよ背後に王妃がいる以上はクリスティナの言う通りにするしかなく、やむ無く青髪の侍女をクリスティナの前から引っ張り出す。 青髪の侍女はそれでも助かろうと叫ぶが、クリスティナは聞く耳を持たない。 「私がクリスティナさまのためにどれだけ○✕※△~~……っ」 そんな侍女の悲痛な叫びも、やがて遠くなる。あれで何十人目だろうか。クリスティナが癇癪で侍女を追い出したのは。そしてその度に侍女は王妃……彼女の『お母さま』の元へ送られる。 ――――その先の末路は……。側妃の娘である私が知るよしもないが。 アメシスタ王国第2王女クリスティナ。王妃の祖国である隣国の王族特有の、光の当たり加減で色の変わる不思議な髪オーロラブロンドに、ピンク色の瞳を持つ彼女は常々、その美貌を合わせて宝石姫と呼ばれている。 しかしその本性は苛烈で我が儘。決して王家の外には出せない。 そんな彼女が……嫁ぐのか。まさか本当に降嫁先が見つかるとは思っていなかったが、よりにもよって噂の冷酷公爵の元へとは……。陛下も何をお考えなのか。 冷酷公爵と呼ばれるのは、ヴァシリオス・アイスクォーツ公爵。若干24歳ながら、公爵家に伝わる黒の魔剣の主に選ばれた、北部の猛将である。 しかしその噂はきな臭い。魔剣の主に選ばれたがゆえに、先代公爵夫妻を自らの手で手にかけ公爵の座に就いたとか。 使用人にも一切慈悲がなく、気にいらなかったら即追い出すとか。 あと社交界では令嬢たちを射殺すがごとく形相で脅えさせるとか、気にくわない貴族は滅多打ちにするとか……何とか色々とよくない噂のある方だ。 しかしそうであっても、北部は魔物のから国を守るための要所。そんな場所にあのクリスティナが嫁いで……北部は大丈夫なのだろうか。 ――――いや、もしかしたら冷酷公爵ならば彼女を扱いこなせるのだろうか。 しかし私はもう嫁ぐ身だ。婚礼の日取りも決まっている。それも……私は東部の要所を守るエステレラ辺境伯さまの元へ。 あの方は私よりも一回りも年上だから……恐らく白い結婚になる。跡取りは心配ないと仰ってくださっているし、とても優しい方で、不自由はさせないと仰ってくださった。 だからこの城にいるよりは……辺境伯さまに嫁げばクリスティナからも、王妃からも解放されるのだ。 だから、嫁ぐ日を心待ちに……そう思っていた時。 上からズカズカとした足音が響いてくる。王城でそのような下品な歩き方をするのは……。 「ちょっと、シェリカ……!アンタ、またこんな辛気臭いポーション作りなんてしているわけ?本当に着るものもやることまでも貧相だわ」 ……うわぁ、クリスティナだ。 本当にどうしてこうも絡んで来るのだろうか。気に入らないのであれば、もう放っておいて欲しい。着るものも質素に収めているのすら、ちょっもドレスなんて着ようものなら、クリスティナがずるいずるいと暴れるからだと言うのに。 でも、相変わらず絡んで来るのよね。やっかみの種類が減っただけだ。 でもこのポーション作りはお母さまから受け継いだレシピを絶やしたくないし、国のためになることだからと続けて来たのだが。 それを辛気臭いと言われても……。魔物の蔓延るこの世界。人々は魔物に生域権を奪われぬように戦いながら暮らしている。 だからこそ討伐をする騎士や魔物による負傷者のために、必ず必要になるものなのに。 しかし王宮内で蝶よ花よと育てられたクリスティナには、それが分かっていないのか……。ポーションを単なる美容液だと思っているのか。 ガシャンッ しかしその時、テーブルの上に並べていたポーションが、クリスティナによって床に叩き落とされたのだ。
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