芸能人

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 コンサートまえの楽屋。  二枚目歌手、藤堂アキラはマネージャーに言いたい放題だった。 「あー面倒くせえ。これから二時間も立ちっぱなしで歌いっぱなしかあ。疲れるんだよ。まったく」  マネージャーがたしなめる。 「こらこらアキラ。それがおまえの仕事なんだからしょうがないだろ。ファンのために、精一杯歌ってやんな」 「ファン?あのドブスどもか。あんな不細工な奴らのために、俺様が働くことこそまちがってる。あんな奴ら、串刺しにしてバーベキューの材料にしちまえばいいんだ。豚肉だ」 「おいおい。ファンあっての商売だぞ。言葉を慎め」 「嫌なこったい。ふん。男から相手にされないドブスな奴らが馬鹿みたいにまとわりついてやがるんだ。マネージャーも知っているだろう。握手会のときなんかよくわかる。どいつもこいつも気持ちの悪いブスばかり。いい女なんて一人もいやしない。握手会のあと、念入りに手を消毒するよ。ーーいい女といえば、高級秘密クラブの有紀さん。ああ、こないだはよかったなあ。金こそ高いが、スタイル抜群美人中の美人で、それが俺とベッドを共に……くふふふふ」 「わかったわかった。また連れてってやるから。そのためにも、普段の仕事を頑張ってたくさんファンに貢いでもらわないと」 「けっ。せいぜい吸い上げてやるか。俺の美貌、俺の美声、俺のとびきりのダンスでな。ま、ドブスたちはただ俺のために金を上納すればいいんだ」 「ファンのおかげで生計が立てられるんだからな。おまえもおれも事務所もだ。ひどい女ばかりかもしれないが、そこのところをよくわきまえて」  スタッフが声をかける。 「そろそろスタンバイお願いしまーす」  藤堂アキラはさも面倒といった風情で腰を上げた。 「仕方ねえ。行ってくるか。苦行だ」  マネージャーが発破をかける。 「楽しませてやってこい。手を抜くなよ。ファンあっての」 「ちっ」藤堂アキラは大げさに舌打ちした。「うるせえよ」  幕が上がり、舞台中央の藤堂アキラにスポットライトが当たる。  満面の笑顔。 「みんな今日はありがとう。ファンのみんな、心から愛してるよ。きみたち一人一人に、熱い口づけをしたいぐらい。本当に大好きだよ」 「キャアアアアア」  割れんばかりの黄色い声援。 「ありがとう、応援ありがとう。そのかわいらしい声援だけで、頑張ろうって元気がわいてきます。アイラブユーです。それでは張り切って歌うからね。聴いてください。  二月発売の新曲、〈二枚舌〉」
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