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言わぬが花
「昨日、成宮優香さんが自宅で首を吊って亡くなりました」
息することすら躊躇われるほどの閑散とした教室に、先生の悲しい声が響き渡る。いつもはソプラノ調の明るい声なのに、今日だけはアルト調の低い声だ。
生徒たちは顔を下に俯け、先生と同じように悲しみに耽る。悲しいのに涙が出ないのは演技だからだろう。私以外のみんながこの教室では芝居役者だ。
『絶対に誰にも言わないでね』
この言葉が私の頭の中を駆け巡る。
俯いた顔を少し上げると、前の席に置かれた花瓶が見える。
成宮優香はこのクラスで虐めに遭ったことで自殺した。正確に言うのなら、私を庇ったが故に虐めのターゲットを請け負うこととなって自殺した。
『絶対誰にも言わないでね』
両手を髪にあてる。ギュッと頭を強く押してみるもののこの言葉が消える事はなかった。幻影が私の耳に何度も何度も語りかけてくる。だから消える事なく頭の中を駆け巡る。
私は一体どうすればいいのだろう。
優香、あなたはどうして加害者を庇うような言葉を残したの?
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