第4章 スクープ

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 山根の腹心の部下、土屋康晴は社長室のドアをノックした。今朝から定期的にノックしているが、部屋の主は「うるさい! 取り込み中だ」と繰り返すばかりで、こちらの要件を聞こうとしない。それでいい。この部屋に籠城していてくれれば、仕事がやりやすい。少なくとも山根とメインバンクのトップ会談が終わるまでは、バカ息子をこの社長室に縛り付けておきたいところだ。  土屋は用意しておいたメモをドアの下から部屋の中に入れて立ち去った。メモを見れば、田中勲の籠城はさらに長くなると分かっていた。  土屋の予想通り、メモを見た勲の手はわなわなと震えた。メモにはたった一言「社長に至急電話してください」とあった。勲にはそれで十分だった。父親の憤怒の表情がありありと思い浮かんだ。連絡などできるはずがない。また怒鳴られるだけだ。勲は今朝の父親とのやり取りを思い出した。やり取りと呼べるようなものではなかった。電話に出るや否や怒鳴られた。身に覚えのない罪を着せられて一方的に責め立てられたのだ。勲は訳が分からなかった。 「ファイルって何だよ。そんなもの知らない。渡した覚えもないよ」 「しらばっくれるな。私のパソコンにアクセスできるのは私とお前と芹沢だけだ」 「じゃあ、きっと芹沢だよ。俺が今までお父さんのパソコンにアクセスしたことが一度でもあるかよ」 「とぼけるな!。お前がファイルを転送したという記録が残っているんだ。1カ月前の深夜。スペーシブの社長室のパソコンからアクセスしている。お前しかいないだろう。洗いざらい話せ! カネを積まれたのか? それとも脅迫か? 会社の存続にかかわることなんだぞ!」 ―――会社の存続……だ……と……。
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