おもちゃ

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 孤独では生きていけない、と言ったのは果たしてだれだったか。  元来群れる生き物ではない私には、関係のない話だ。 「ああ、来たのね」  窓から入った私に、その女は振り向いた。  クマが浮かんだ貧相な顔だ。  この世の絶望をすべて詰め込んだような目をしている。ショートカットの黒髪に、生地の薄いワンピースを着ていた。うっすら笑う彼女は(はかな)げで、見る者によっては大層魅力的に映るのだろう。  野良(のら)らしく汚い、ただの黒猫でしかない私に、彼女は透き通る弱い声で続けた。 「今日は、さくらんぼ。いただいたの、となりの大学生から。……食べられるでしょ? 種は抜いたから」  皿に入ったさくらんぼを、目の前に置かれる。血で染めたような深い赤色をして、丸々と大きい。  かみ締めれば、皮がはじけるとともに、甘酸っぱい果汁があふれてくる。……悪くはない。 「今日も、来てくれて嬉しい。わたしのところに来てくれる友人なんて、いないから」  彼女の名前は小夜子(さよこ)といった。小夜子は私から離れて丸椅子に腰かける。遠目から私の食事を見守った。
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