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女性は仰向けに倒れてた。私より若くて、化粧も上手できれいな子だった。
その子の顔が、私を向いていた。口が、動いてた。目が、訴えてた。
でもね、わかるの。どうせ助かりっこないって。
おなかが真っ赤でね。たぶん、中身が出てた。怖くてよく見てないんだけど。
それに、私も一大事なの。面接がうまくいくかどうかなの。やっと書類が通った会社なの。
どうせ助からないのなら、私が今、わざわざ助ける必要もないじゃない? 少なくとも、このときはそう思ったの。
悲鳴もあった。あれほど派手に倒れてる。きっと私じゃなくても、気付いて助けようとする人は現れる。
だから、見捨てたの。そのままバス停に向かった。走ったおかげでバスには間に合った。面接にも間に合ったし、受け答えも十分にできた。
そのあとのことは、わからない。
多分、死んだんでしょう。私の周りには死がつきものなんだし。少なくとも、面接から帰ってきた時点で、その女性はもういなかった。犯人が捕まったのかもわからない。
で、会社のことだけど。結果としては受かった。働くことになったの。
私が働いてるところ、想像できる? 私はね、できなかった。それは今でも……。
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