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肘をついて、組んだ手に顎をのせる小夜子は、食事中の私を見ていた。
「……今みたいに一人で、ひきこもって、のんびり過ごすのが一番いいんだって思えなかったの。それが、他の人を不幸にしない方法なんだって……あのときはまだ気づかなかった」
すべて食べ終えた私は、ゲップをして口を舐める。目の前の皿は、赤い汁に黒い種が浮かぶだけだ。
「おまえは、いつ死ぬんだろうね?」
その言葉に、目を向けた。
小夜子の顔は笑みが消え、眉尻を下げている。
「せめて私が生きているあいだは、死なないでね。おまえは、私にとって唯一の話し相手なんだから」
私は返事をしない。鳴くこともない。
座っていた私は歩き始め、テーブルをおりる。開きっぱなしの窓に向かう私の背に、小夜子の声がかかった。
「また、来てね。急に来なくなる、なんてことはやめてね。猫は知らないとこで死ぬって言うし」
……案ずるな。少なくとも、小夜子より先に死ぬことはないさ。絶対に。
そんなこと、決して言うこともなく、私は窓から外へ出た。
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