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その背後には、大きいキャンバスがイーゼルにかけられている。真っ赤な色で塗りたくった絵だ。固まりかけの血のようにどろどろとして見えるし、炎のように燃え盛っているようにも見える。
小夜子は、いわば画家なのだそうだ。自分の絵を下手の横好きレベルだと言っていた。本人がそう言うのならそうなのだろう。
私にはヒトの芸術というものがよくわからないから、あの絵にどれほどの価値があるかはわからない。
「大学生かぁ。いいなあ。若いってだけで、何でもできる時期だよね」
私がここへ来るのは、なにも食事をするためだけではない。この女は、私にとって有益な情報を持っているのだ。
「でも若いからこそ、自分本位で、やけに楽観的になったりもする。若いからこそ集団の空気に飲みこまれたりもする」
常人にはありえない光景を、ありえないほどの数、目にしているのだ。それは、世間一般的には現実味のない話、なのかもしれない。
「ああ、嫌なこと、思い出しちゃったな……」
本人にとってはまるで終わらない悪夢だ。……現実と幻想を行き来しているかの繰り返し。
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