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「たとえば映画とか…行きたくない?」
「観たい映画、あるのか?」
「特にないけど…」
けげんそうな顔をする。
つまり、俺が言いたいのはさあ。
「…いっつも、どっか行くとき、俺が誘ってるだろ」
「そうだっけか?」
春高バレーなんて、ユウがひとりで行こうとしていたところを、俺がとっ捕まえたんだからな。渋谷だよ。ワカモノのお出かけスポットだぜ?
それなのにユウはきょとんとした顔をする。
「どうせ行くなら、どっちから声をかけようが同じことだろ?」
ユウは器用に背中側の窓の鍵を腕を伸ばして開ける。そのまま顔をそらして外気にあたる。いいかげん離れろよ、ともう一度俺に言う。ひねった首の、のどぼとけ。
「ち…ちがうもん」
全然、違うもん。誘うんじゃなくて誘われたいんだよっ。
どうしてわかってくれないんだよ。俺はなんだかとても自分が恥ずかしくなって立ち上がる。
「ユウのばかっ…!」
「あ、おい。アキ…」
まのぬけた声が後ろから聞こえたけれど、俺は教室のドアから走って出て行く。出て行こうとして、振り返って捨て台詞を投げつける。
「でくのぼう! 鈍感!」
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