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クローゼットを全開にして、チェストの引出しもぜんぶ開ける。そんなに服をたくさん持っているわけじゃないけど、選ばなきゃ。
絶対に中学生にも、ユウの弟にも見られたくない。大人っぽくなりたい。
でかでかと英字のロゴが入ったフード付きパーカーはやめよう。リュックサックも、だめ。
じゃ、何ならいいんだろ。モノトーンコーデ? 一着だけ持っているスーツ? まさか。
服を出して体に当てては、ベッドの上に放り投げる。
結局、無地の長袖シャツとスキニーパンツ。無難。
学校指定のダッフルコートは論外だ。ユウとおそろいみたいな、でもサイズは確実に違う、紺色のダウンコートを羽織る。寝ぐせが直りきらなかったから、毛糸のボンボン付きの帽子をかぶった。ボンボンの部分で背をかさ増しする…わけじゃないぞ。
ボディバッグを体に掛けて、姿見の前で角度をあれこれする。
ユウには、へろへろのパジャマも、そういや女装姿さえ見られている。それなのになんで、いまさら服なんて、どう見られるかなんて気にするんだよ。我ながらおかしい。
ユウの、さっきのあの一言のせいだ。
母親が上がって中で待っていれば、と言うのをユウは断って、玄関の上がり框に座っていた。
例によって全身黒だ。ダウン、黒のパンツ。スニーカーだけカラーリングが入っている。
もしかしたらユウのお母さんが選んでいるのかもと思う。もしくは、お兄さんである健ちゃんのお下がり。こいつのことだから服にこだわりなんてないだろう。でも俺は、すらっとしていて似合ってる、と思ってしまう。
「お…お待たせ」
やけにその四文字を言うのが気恥ずかしかった。
デートって言った。あの仏頂面が、デートって。
これはデートなの?
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