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家を出てすぐに路上で投げ渡された。
「…わっ」
両腕で抱きとめて受ける。
キャンディー、マシュマロ、クッキー。マカロン、入浴剤。おせんべい、タオルハンカチ。ぎっしり詰まっている。クッションくらい大きな、りぼんのかかった透明の袋。
「これも」
極めつけに、ぬいぐるみ。コアラだ。本物くらいの大きさ。中等部のとき修学旅行で行ったオーストラリアで見たんだよ。確かに、俺のかばんにマスコットをぶら下げてた時期はあったけど、特に好きだからではなくてお土産のつもりだった。
「ユウ…」
袋もぬいぐるみも大きすぎて、ユウの顔が見えない。
「バレンタインのチョコ、うれしかったから…検索したり、人に聞いて出てきたもん全部。コスメって単語は、意味がわかんなかったけど」
コスメってのは化粧品のことだよ…。
カラフルな袋の向こう側で、ユウは少し目をふせて唇をとんがらせているように見えた。
その顔は知ってる。照れてるときの表情。ポーカーフェイスのこいつなりの。他の人は気がつかないやつ。
「アキのかばん、お母さんに渡しといた」
昨日、俺が学校におきざりにしたやつだ。
「プリントも、残り片づけて堀センに出しといた」
堀江先生は、国語のおじいちゃん先生のこと。
「あ…ありがと…」
「映画、クレープを食べる、ボウリング。観覧車、水族館、遊園地。全部行くぞ」
へ? ぜんぶ? それに、クレープってやけにピンポイントだな。
「そんなの、忙しいよ…」
ユウ。なに考えてるかわかんないと思ったら、急に優しくなるんだから反則だ。
「いっつも俺ばっかり、いっつも振り回されてさ…」
くやしくなって、でもうれしくて、そのうれしさがまたくやしい。コアラの頭に口元を埋めてつぶやいた。
「…アキが、俺のこと振り回してんだろうが」
「え?」
顔を上げたら、ユウはもう後ろ姿で歩いて行っちゃうとこだった。
待って。今なんて言ったんだよ。
差し出された手を、追っかけてあわててつかんだ。
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