3月16日

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家を出てすぐに路上で投げ渡された。 「…わっ」 両腕で抱きとめて受ける。 キャンディー、マシュマロ、クッキー。マカロン、入浴剤。おせんべい、タオルハンカチ。ぎっしり詰まっている。クッションくらい大きな、りぼんのかかった透明の袋。 「これも」 極めつけに、ぬいぐるみ。コアラだ。本物くらいの大きさ。中等部のとき修学旅行で行ったオーストラリアで見たんだよ。確かに、俺のかばんにマスコットをぶら下げてた時期はあったけど、特に好きだからではなくてお土産のつもりだった。 「ユウ…」 袋もぬいぐるみも大きすぎて、ユウの顔が見えない。 「バレンタインのチョコ、うれしかったから…検索したり、人に聞いて出てきたもん全部。コスメって単語は、意味がわかんなかったけど」 コスメってのは化粧品のことだよ…。 カラフルな袋の向こう側で、ユウは少し目をふせて唇をとんがらせているように見えた。 その顔は知ってる。照れてるときの表情。ポーカーフェイスのこいつなりの。他の人は気がつかないやつ。 「アキのかばん、お母さんに渡しといた」 昨日、俺が学校におきざりにしたやつだ。 「プリントも、残り片づけて堀センに出しといた」 堀江先生は、国語のおじいちゃん先生のこと。 「あ…ありがと…」 「映画、クレープを食べる、ボウリング。観覧車、水族館、遊園地。全部行くぞ」 へ? ぜんぶ? それに、クレープってやけにピンポイントだな。 「そんなの、忙しいよ…」 ユウ。なに考えてるかわかんないと思ったら、急に優しくなるんだから反則だ。 「いっつも俺ばっかり、いっつも振り回されてさ…」 くやしくなって、でもうれしくて、そのうれしさがまたくやしい。コアラの頭に口元を埋めてつぶやいた。 「…アキが、俺のこと振り回してんだろうが」 「え?」 顔を上げたら、ユウはもう後ろ姿で歩いて行っちゃうとこだった。 待って。今なんて言ったんだよ。 差し出された手を、追っかけてあわててつかんだ。
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