60人が本棚に入れています
本棚に追加
要するにソファみたいなものだ。薄いグレイで、映画館のだから、さすがに座り心地は良い。高めのついたてで区切られていて、ちょっとした個室みたいだ。
俺はひきつづき照れ隠しで、ユウとなるたけ離れて座りながらポップコーンを貪り食う。早く映画、始まんないかなとうそぶく。
…ってことは、今日は俺の言うことなんでも聞いてくれるのかな…?
ちらっと横目で見る。気怠げだ。ソファに浅く腰かけて背もたれに寄りかかっている。長身をもてあますみたいに。
ユウの考えたホワイトデー。
館内が暗くなり、長々とした予告が終わると本編が始まった。ヨーロッパのどこかの国の森が延々と映し出されて、画面は静かで暗い。俺はやっとユウにすり寄る。
二人組の少年が、森の奥の「いかにも」な古いお屋敷に迷い込む。うちの学校の小等部の制服に似た服を着ている。白シャツと半ずぼん、麦わら帽子。
「…これから始まるんだね」
ささやいた。
軋む扉を開けて、ほこりっぽい床へ踏み出す考えなしの主人公たち。俺はスニーカーを脱いでソファに足を上げ、体育座りの姿勢になる。
え?
脇腹に、ごつい感触。ユウの手だ。俺の背中から腕を回している。よく知っている指に、からだと心がきゅっとしめつけられる。緊張と、よろこび。
「ユウ…どうしたの」
見上げると、ユウの目は画面を見たままだ。
でも、ユウと接した側の腕の下にも、手が入ってきた。あれっと思うまもなく、体がひょっと浮き上がる。
え? え?
ユウの膝のあいだに、ちょこんと座らされる。そして後ろから抱きすくめられる。がっちりと。
これって…。
「ユウ…」
これはもしかしたら。
「もしかして、びびってる…?」
俺の頭のてっぺんにあごを乗せて、ユウはこくりとうなづいた。
最初のコメントを投稿しよう!