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男子校でチョコが飛び交うのは見かけたことがない。その日はさすがに関心のベクトルは外に向くみたいだ。
中等部ではともかく、高校生ともなると、あからさまに騒ぐやつも見当たらない。
彼女持ちはもらえるのが確定しているだろうからあえて騒がないし、あてがないやつは黙ってやり過ごしているのだろうか。
俺にも、関係ない。
そう思ってたのに。
おととい。バレンタインデー前の連休最終日。
ユウのお母さんによく誉められるほど料理上手らしいうちの母親が、チョコの匂いを立てながらキッチンに立っていた。俺は吸い寄せられるように近くに行った。ひまだったし。会社の仲間に配るという。
「仕事のひとにあげるの? お父さんには?」
「あのひとは甘い物嫌いだからネクタイをあげる」
「ふうん…でも本当は好きな人にあげるんじゃないの?」
なにがおかしいのか母親は声を上げて笑った。
「お…俺もやっていい…?」
「あら、めずらしい」
黒に近い茶色のとろりとしたものがボウルになみなみと入れられている。これがチョコレートか。
それから、白い粉と黒い粉。クリーム色のつぶつぶ。複雑なかたちをした銀色の器具。なんだかわからないものばかりが並んでいる。
そういえば俺、チョコレートって好きでも嫌いでもない。チョコについてなにかを考えたことって、ない。
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