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「空輝の学校では、バレンタインはどうなの。おねえちゃんは友チョコだって言って、昔は熱心にやってたけど」
「もてる人は、漫画みたいに校門や駅でよその学校の子に待ちぶせされてる」
「あらあら、すごいのねえ」
…俺には、関係ないけど。
「おとなりの悠陽くんは、」
「えっ!?」
泡立て器とボウルが派手にぶつかってやかましい音を立てた。
「ユウが、なに…?」
「悠陽くんはもらったりするんじゃない? 格好いいもの」
「…知ってる」
ユウがかっこいいのは知ってる。
でもそんなことは俺だけが知ってりゃいいの。
決して派手な顔じゃないけどすっとした目元や鼻。めったに笑わない薄い唇。でっかい手。
想像すると、そのかたちだけじゃなく温度や感触まで勝手によみがえってくる。母親のとなりに立っている最中なのに。
ユウとはクリスマスイブに、学校のツリーの下でキスをした。だから俺はユウから離れないって決めた。
うつむいて、チョコレートをかき混ぜるふりをする。
「妬かないの。空輝もそのうちもっと身長が伸びるから」
「………。」
妬いてないし。
がしがしと泡立て器でかき混ぜる。男の子は力があるから助かる、なんて母親はのんきだ。
ユウは、金曜の放課後は部活の当番だとか言ってさっさと教室を出て行っちゃった。
いっしょに帰るって言ってくれれば、俺はずうっと、待ってるのに。
優しくしてくれるときは優しい。けれど基本は塩対応っていうか…キスしてくれて、好きだって言ってくれたのは本当にあったことだったのかな? って思える。
スプーンですくって、そのあとてのひらで転がして丸くかたちを作る。
ユウめ。俺をこんな気持ちにさせて。俺にチョコレートなんて作らせて。
ひとつにはスライスアーモンドをびっしりと突き刺す。とげとげしいハリネズミ。
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