2月14日

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渡せなかった。一日中、いっしょにいたのに。 幼なじみの男同士は、バレンタインにチョコのやりとりなんてしないんだよ。一日中、かばんの中にそれはあった。 「ユウ…今日、なんかあった?」 「特になにも」 「よかった」 …誰からももらってない、のかな。 でも明日以降かもしれない。改札を出たら、今にも待ち伏せた誰かが飛び出てくるかもしれない。俺は周囲をきょろきょろしながら歩いた。挙動不審だ。ひとりでも来てほしくはない。 「なにが?」 「ううん、いい」 ユウはゼリー飲料のパウチパックを、親の仇かというくらい薄っぺらににぎり潰しながら飲み干す。ばかぢから、と思う。俺の気持ちなんか知らないで。 家まで住宅地の中を歩く。 となり同士。いつもユウは俺が自分ちの玄関に入るまで見届ける。でも今日はユウの家の前で、不自然にそして唐突に立ち止まる。 「アキ?」 どきっとした。 肩に掛けていたフェイクレザーの学生かばんが、急に重たく感じる。それを胸に抱えて手を突っ込む。教科書やノートにペンケース、タオル、チェーンが切れてそのままになっているコアラのマスコット。そのいちばん奥の、ひしゃげた小さな紙の箱をつかむ。てのひらから、少しだけはみ出る程度のおおきさ。 それを確認もしないで、ユウの胸に押しつける。顔は、見れない。 何秒か空いて、ユウのごつい指の気配。俺はさっと自分の手をひっこめる。 「…捨てていいから!」 振り向けない。門を開けて家に逃げ込んだ。
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