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「こっち来い」
「や…やだ…」
俺は再びそっぽを向いて隠れる。
「こっち来い。そんなとこにいないで」
ぶんぶんと首を横に振る。
「俺は犬じゃないもん…」
ユウになついてる犬じゃないもん…。
「じゃあ俺がそっちに行く」
ユウは焦れたように言って、ベッドを軋ませて立ち上がる。カーテンをめくって俺のとなりに座った。
「もうっ…来るなよ」
なんでふたりしてカーテンの中で体操座りなんだよ。変だろ。俺はますます膝をぎゅっと抱える。
「バレンタインデーのことなんか頭になかったから、びっくりした」
「だ…誰からも、もらわなかった…?」
俺が知りたいのはぶっちゃけ、そこ。
だって嫌なんだもん。無愛想なユウが誰かに一言だって、ありがとうって言ったり、その人からもらったものを食べるだなんて。
「もらってないよ」
「…義理でも?」
「ああ」
俺はほっと胸をなでおろしてしまう、心のせまい幼なじみだ。
「予想もしてなかったから、アキがくれてうれしかった」
俺は膝にあごを乗せたまま、右側に来たユウをちらっと見る。無表情だ。いつもどおり、不機嫌そうにすら思える。
「あったかいととけちゃうから、氷水で手をひやしながら丸めて作ったんだよ…」
俺のは母親が作ったやつより大きくて不格好だった。二粒しか入らないちっちゃい箱にぎゅうぎゅうに詰めた。
ユウのために。ユウに気持ちを伝えたくて。
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