2月14日

8/11
前へ
/34ページ
次へ
氷水で? 驚いたように言うと、ユウは俺の右手を膝からひきはがしてにぎった。ちゃんと、俺の手が床につかないように下から包み込んで。 それだけで、先週末ユウが俺を置いて帰ったことは、もうどうでもよくなる。 俺はユウのことが好き。 「味見してないけど、おいしかったの…?」 おそるおそるユウを見上げると、目が合った。俺は一日中挙動不審だったから、今日はじめて、まともに視線が絡む。 好き過ぎて、つないだ手の温度が上がる。 奥二重の瞳は、チョコレートよりもっと黒くて、でも、澄んでる。 「ユウ…好き」 ユウは俺の言葉を受け取るみたいに、俺の唇に自分の唇をそっと乗せた。 キスはチョコレートの味がした。甘くて苦い。 「ほんとに、食べたんだ…」 「食べた。すげえ口の中に刺さったけど、アーモンド」 「………。ごめん」 ごめん。でもあれが俺の気持ちだったんだよ。とげとげしてつんつんして、でもその真ん中は不安で。 「でも、もういっこはまんまるだよ…」 もうひとつのチョコレートトリュフを指でつまんで、ユウの唇のすきまに押し込む。 もう一度、キスする。 ユウの舌の上に乗ったチョコレートはすでにとけかけていて、俺の口の中で輪郭をなくしていく。 「っん………」 ユウの首に腕を回す。もっと甘さを分け合いたくて、もどかしくなってひきよせる。ユウは俺のうしろ頭をでっかい手で抱えて、離さない。 腰が抜けそうなくらい、甘くてとろとろ。 二月の空気でひえた窓ガラスが曇って、俺たちを隠そうとする。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加