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勇者と魔王
若い男が一人、憂鬱な面持ちで窓の外を眺めていた。
シックな内装で整えられた城の窓から見える景色は、古城を護るように取り囲む白亜の石壁。そして、広大な庭を鮮やかに彩る花々と清々しい程に澄み切った青い空。暗く恐ろしい場所だと人々の噂で語られるこの城は、その噂とは逆に心奪われるほどの美しさだった。
だが、美しいのは景色だけではない。
しばらく前から窓辺に佇んでいる男。彼は、この城の主である魔王サージュ・エレジロア。女性的な柔かな雰囲気を漂わせながらも、しっかりと男性的な印象も与える整った顔立ち。重い印象を与えがちな長い黒髪は、絹糸のように細く艶があり、些細な身体の動きで軽やかに流れる。そして、何か思い悩むように外を見つめる双眼は、黒曜石のような深い輝きを放っている。細身の身体を力無く壁に寄り掛からせる男の姿は、魔王という肩書きを感じさせない儚げな印象を抱かせるのだった。しかし、その姿はやはり魔に属する者。黒髪流れる頭部には、人間族にはあるはずのない羊のようで竜のようでもある角が伸びていた。
洗練された麗しさに魔の持つ妖しげな魅力が合わさる若く美しい魔王。そんな男の表情は、何故か先ほどから憂鬱に曇ったままだった。
魔王を憂鬱にさせる原因。それは、これから相まみえなければならない存在にあった。
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