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「……何故このような事をしなければならないのだろう……」
薄い唇からこぼれ落ちたぼやき。返答のない自問自答に魔王は小さくため息をつき、ふっと視線を窓から外した。すると、その動きに合わせるかのようにノックの音が響いた。魔王はゆるりと扉の方へと視線を向け、扉の向こうにいる者へ入室の許可を出した。ほんの僅かな間を置き、白髪の若い男が部屋に入り、窓辺に佇む魔王の側まで来て恭しく頭を下げた。
「魔王様、勇者一行が正面の森に到着したと報告がありました」
その報告に魔王の眉が僅かに動く。
「……そうか、分かった。直ちに城内に居る者全てに城の奥へ避難するよう指示し、併せて術士達には城全域に結界を張るよう通達を。……私は、勇者達を迎える為、正門に向かう」
白髪の男は、魔王からの命を受けると再度頭を下げ、足早に退出していった。
「……何故、このような事を……」
一人、部屋に残った魔王は、先ほどと同じぼやきをこぼす。そして、配下の者の前では見せなかった思い詰めたような表情を浮かべ、再度ため息をついた。
「だが、これも全て、民が平穏に暮らすため……」
迷いに表情を曇らせていた魔王は、自己暗示でもかけるようにそう言い、心身を勇壮なもへと入れ替えていった。
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