18人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんたが魔王か?」
「ああ、そうだ。私がこの城の主であり、この国の王。魔王サージュ・エレジロアだ。勇者よ、よくここまで辿り着いたな」
魔王は様々なことを考えつつも、品性を保ちながら対応をしようとする。一方で、相対する勇者の態度は粗暴さを感じるものだった。素性を尋ねる際の口調も切るような荒さがあり、あまつさえ返答を聞くなり、
「そうか。だったら、会ったそうそうで悪いが――死んでもらうっ」
と、言い放ち、鞘から抜いた剣の切っ先を魔王に向けた。
「……よかろう、相手になろう」
魔族を統べる王が、この程度の煽りで気圧されるはずもない。定型的な言葉を返し、魔王も自身の魔力を高め戦闘体制に入った。
戦いは勇者の咆哮から始まった。
闘志を奮い立たせる雄叫びを上げ、魔王へと単身で突撃してくる勇者。
一瞬で間合いを詰め、襲い来る勇者の剣。魔王の双眼に、迫り来る銀色の煌めきが映る。剣の軌道を目で追い、軽やかな身のこなしで身体を退いた次の瞬間、鋭い風圧と共に銀色の軌跡が魔王の眼前を通りすぎた。
一見、無謀に思える攻撃だったが、勇者の剣は的確に魔王の首を狙ってきていた。剣の軌道を見切り難無く避けた魔王であったが、この迷いのない剣筋には少々肝を冷やした。だからといって、この程度の攻撃で魔王が怯むはずもない。
『大気にまどろむ青き精霊、影に潜みし黒き精霊よ、汝らの吐息を彼の者に与えたまえ――』
次の攻撃に備え勇者が態勢を整える一瞬を狙い、魔王が詠唱を唱える。紡がれた詠唱により魔王の魔力が青く黒ずんだ色の魔力に変化していく。
最初のコメントを投稿しよう!