勇者と魔王

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 ……そう、この戦いで意味があるのは、勇者と魔王が戦うこと。そして、勇者が魔王を討ち取ることなのだ。  以前から魔王は、この戦いに疑問を持っていた。できることなら自分の代ではこの役割が回って来ないことを願っていた。だが、その願いも虚しく魔王のもとに勇者は姿を現してしまった。  巡ってきたものは仕方ない。魔王は民の為に与えられた役目に準じ、勇者と戦うだけ。……それだけのはずだった。 「…………」  この熾烈な戦闘の最中、魔王の心中には元々抱いていた疑問とは別の疑問が生まれ始めていた。  それは、今対峙している勇者本人に対する違和感。  勇者の攻撃は勢いも鋭さもあり、迷いのない剣筋は称賛に値する。ただ、執拗に首だけを狙って来る攻撃は、いささか単調過ぎるように感じる。魔王は時折、わざと隙を作り、致命傷にならない場所へ攻撃を誘導しようとしていたのだが、それでも勇者は頑として首だけに狙いを定めてくる。その姿勢は、確実に仕留めるというい強い意思を感じる。  しかし、それはまだ小さな違和感。  魔王は、妙な感覚に囚われていた。初めて勇者の姿を目にした時も感じたが、彼の澄んだ青い瞳を見ると、心が揺さ振られるような不可解な感覚が広がるのだ。最初は些細なこととして気に留めていなかったが、しだいにその感覚が気のせいでは片付けられないくらいに強くなってきていた。それに感化されたのか、迷いが大きくなっていく。  魔王は自身の感情に戸惑い、悩む。この戦いの意味。勇者であるこの男の存在に。  そして、とうとう迷いが魔王自身の攻撃に影響を与えてしまった。
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