勇者と魔王

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「お、おいっ! 何なんだよ。何が起こったんだっ⁉」  勇者が周囲を再度見渡し、あたふたとする。 「おい、魔王っ! お前、何やったんだ。ここはどこだ? ウィルたちをどこにやったんだっ⁉」  すっかり混乱した勇者が、魔王の襟元を掴んで乱暴に揺さぶってくる。 「……わ、私は何もしていない。どういう状況なのか私の方が知りたい」  ぐわんぐわんと揺れるせいで思考はいっそう混乱してしまい、魔王はたどたどしく答えるだけだ。  二人とも完全にパニック状態に陥っていた。  それもそのはず。つい今しがたまで決闘の場になっていた魔王城が、一瞬で雪で覆われた銀世界に変わってしまったのだから。  魔王城は白亜の石壁に囲まれた城塞の形状であり、視覚的な印象は白色が強かった。とはいえ植物も多く植えられ、鮮やかな色合いもある明るい場所だった。それが今、二人の視界に映るのは、白一色に染まった雪の世界。しかも、立っていると結構きつめの傾斜を感じることから、ここが平地ではなく山中であることが考えられた。幻覚による視界の変化ではなく、場所そのものが変わっているようだった。 「何だよ……。どういうことなんだよ……」  全く把握しきれない状況に、勇者が頭を抱えて項垂れる。 「……それにしても、この寒さヤバくないか?」 「……確かに。このままでは凍え死んでしまう」  勇者が顔を上げ、ブルッと身体を震わす。魔王もこれには同意し、両手で身体を摩る。
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