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目を覚まし、窓から差し込む朝の日差しをぼうっと眺めてはっとする。化粧も落とさず寝てしまった。最悪だ。とっくにお肌の曲がり角は過ぎているというのに。
「最悪……」
慌ててバスルームに飛び込み、化粧を落とすついでに髪と身体と洗う。今日が休日で本当によかった。
バスルームを出て簡素なルームウェアに着替え、髪をタオルドライしつつ鏡に向かう。さっさと保湿をしなければ。
化粧水に伸ばした手を空中で止めた。
「なにこれ」
鏡には知らない人が映っていた。真っ白な顔色に、切れ込みを入れた様な目と口。まるでお面をつけているみたいだ。頑張って伸ばしている髪は四十センチも短くなっている。
まだ夢を見ているに違いない。私は落ち着いて自分の頬をつねった。更にぱしぱし叩いてみる。目は覚めない。夢だと分かっている夢、明晰夢ってやつなのか。
それにしても、シャワーの水の質感も、頬に残る軽い痛みもあまりにリアルだ。気味が悪くなり、部屋に戻り鞄に入れっぱなしだった水入りのペットボトルを取り出しつつ、テレビの電源を入れた。
水が気管に入り、慌ててむせた。テレビにはニュース風味のバラエティ番組が映っている。そこにいる全員が、同じ顔をしていた。司会者も、アシスタントも、タレントたちは皆、さっき鏡に映っていたのと同じ能面のような顔で喋っている。
「何これ何これ何これ……」
呪文のように唱えながらリモコンでチャンネルを繰る。どこに回しても似た光景が広がっている。服装や身長は違うのに、まるで同じ顔をした人々。
恐ろしさに襲われ立ち上がり、ベッドに放ったままのスマホを握りしめた。誰でもいい。誰かの声を聞きたい。近くに住む友人の名前を選んで通話ボタンを押す。
逃げるようにサンダルを引っ掛け、部屋着のまま外廊下に飛び出した。じっとしていられない。友人の元に押しかけるべく、二階から階段を下りてアパートの玄関を通り抜けた。
大きな通りに出て、ひっと喉から変な音が漏れた。
通りを行き交う人々も、同じ顔をしていた。白い仮面に目と口の切れ込み。当然のようにそこかしこを闊歩している。強張る首を巡らせて、パン屋のショーウィンドウに映る自分を見て足の力が抜けた。やはりそこには、鏡で見たばかりの顔がある。私の顔が、どこにもない。
「ごめんごめん、寝てた。どしたー? まだ朝の八時なんだけどー」
スマホから慣れた友だちの声が流れたおかげで、私は辛うじて卒倒せずに済んだ。
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