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これが長くリアルな夢でなければ、人々は皆、同じ顔になってしまったみたいだ。そして誰もそのことに気がついていない。少なくとも、混乱しているのは世界で私一人らしい。
髪は全員同様の黒いベリーショートで、見た目では男か女かの区別もつかない。服装や大きさは違っても、誰もが同じ体格をしている。子どもは縮尺を縮めただけ、試しに海外ドラマを観たけれど、そこにも大きくなっただけの同じ人間が映っていた。
かなしいかな、いくら混乱してもお腹は空くし喉も乾く。屋根も寝床も必要だ。だから私は、変わらず会社で働く必要がある。
誰もがスーツ姿の会社で人の区別をつけるのは大変だった。服が女物か男物かで性別はギリギリ判断できる。しかし、声も同じなのだ。人間の声を全てひっくるめて平均を取ったような、特徴のない声。仕方ないから、仕草や喋り方で相手を区別するしかない。
「なんか先輩、最近沈んでますね」
エレベーターで居合わせた後輩らしき人物に話しかけられ、ぎくりとする。座席の決まったフロアならまだ対処のしようもあるが、席を立てばもうわからない。エレベーターなんか最悪だ。
「いや、その、疲れてるのかなー……」
「たまには有休取って遊びにいったらどうですか。悩みなら、いつでも聞きますよ」
そう言ってくれるのに、うっかりじーんとしてしまう。だけど申し訳ない、私はあなたが誰かもわからないんだ。
病院にも行ったが、医者も首をひねるだけだった。「相貌失認」という言葉を聞かされ、帰って調べてみたけどどうも違う。私は人の顔が分からないのではなく、人の顔が全て同じに見えるのだ。外見に違いさえあれば、それなりに覚えて区別することはできる。
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