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次第に自分が本当に疲れていくのを感じた。私以外の誰もが、普通に毎日を過ごしている。少なくとも、同じ悩みを持つ人間は見当たらない。孤独感や気疲れに悩まされる私は、半日休暇をもらって会社を出た。私の不調を悟っていたのか、当日でもすんなり了承してくれた上司には感謝だ。
誰か、私の孤独を慰めてくれ。そんな思いで帰り道の居酒屋に吸い込まれた。ここでは、昼間はランチを出している。
「ここ、空いてる?」
また同じ外見をした誰かが、わざわざカウンターの私の隣に腰掛ける。何故か私とお揃いの刺身定食を頼んだ彼は、あれやこれやと話しかけてくる。興味ない、なんだその話。最近売れすぎのアーティストや、古臭いアニメの話を繰り出す彼に、私はおざなりな返事を続けた。それより彼の茶碗にご飯粒が残っているのが気になって仕方ない。
「なんだよ、前と全然反応ちがうじゃん」
手を合わせてさっさと会計に立つ私の背に、彼が言い放った。
店の外に出て気が付いた。彼は以前一度だけ話をした男だ。さっき聞かされたアーティストやアニメの話も、あの時話題にしたものだ。
千載一遇のチャンスだったのに。名前とか、LINEだとか、聞くなら今しかない。今すぐ戻って、うっかり忘れていたんだと説明しなければ。
そう思いつつ、私の足は店から離れていった。何だか急に心が冷めていく。彼の名前を知ったところで、何だというんだ。あなたに会いたい。そんな私の気持ちは、すっかり消え去っていた。
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