修学旅行のハプニング⁈

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修学旅行のハプニング⁈

「はい、あ〜ん♡」  丸山さんが大翔の口にスプーンを運ぶ。 「るーちゃん、美味しいよ〜!」 「よかったねぇ♡」  相変わらずバカップルな二人になれつつ、俺も絶品カレーを口に運ぶ。  あまり味がしなかった。ただ、隣の日下部さんに気を取られている。  絶望味のカレーを、もう一度飲み込んだ。 「はーい、班ごとに集まれぇー!キャンプファイアー始めるぞぉー」  担任の声がかかり、俺たちは担任の元に集まった。  このホテルには、キャンプファイアーができる庭があった。  俺はそんなありがちな青春の一コマもろくにやる気が起きなかった。  その時。 「せっかくポケットのおまじないしたから、話しかけたいな〜」  この前、ポケットのおまじないを俺に伝授してくれた夜長さんと松枝さんだ。  …もう必要ないけど。  今度はなんなんだ。 「え?あのおまじない知らないの?」 「?なになに〜?」  夜長さんはぼやく松枝さんに言った。 「キャンプファイアーで告白したカップルは、長続きするんだよ〜!」 「え〜、マジで〜?」  キャンプファイアー。  じゃあ、日下部さんも告白するのかな。  俺じゃない誰かに。  そう思うと余計に落胆した。  俺の気も知らずにキャンプファイアーを楽しんでいる奴らが羨ましく思えた。  …抜け出そうと思った。  俺は賑やかなクラスメイトたちに背を向けて、気づかれないよう静かに歩き出した。  しばらく歩いたところで、ふと足を止める。  …後ろから、足音がしたのだ。  その足音は、だんだんと近づいてきた。  俺は先生かと思い物陰に身を潜めた。  だが、それは無駄だった。  その足音は、俺に気づいているのかいないのか、俺が隠れている所に向かってきた。  …まずい、見つかる…!  と、身構えたのも束の間。 「…さ、桜庭…くんっ…⁈」  聞こえてきたのは、聞きなれた声。  その人は……。 「…日下部さん⁈」  そう、俺を絶望に突き落とした張本人。  ーーーー日下部さんだった。 「なんでここに…」 「それはこちらのセリフですよっ!とにかく、逃げますよ!ほら、早く!」  いつもと違う日下部さんの焦ったような声。  俺は日下部さんの言葉にあんぐり口を開けた。  逃げる?  誰から?  思いながらも、日下部さんに手を引かれるがままに〝何か〟から逃げる。 「なぁ、何から逃げてんの?」 「そんなこと言ってる場合じゃないですって!後で話しますから、逃げましょう!」  おそらく学校の人は誰もいないホテルの中を、日下部さんに手を引かれながら逃げる。  突然すぎてわからなかったけど、耳を澄ますと後ろから誰かの足音と、煽るような笑い声が聞こえてきた。  逃げろ。  何がなんでも、逃げ切れ。  そんな本能的な声が、心のうちから聞こえてきた。  もうずいぶん走っただろう。俺たちは足音が聞こえなくなったところで、足を止めた。  隣からは日下部さんの荒い息が聞こえてくる。 「で、日下部さん、なんだったの?」 「はい。あの人は、私たちの学校の関係者ではありません。派手な金髪とピアス、それにタバコを咥えていました。おそらく、ヤンキーでしょう」  正直、日下部さんからヤンキーという言葉が出てくるとは思っていなくて驚いた。 「で、なんで日下部さんはホテルの中にいたの?」 「それはこちらのセリフですってば…ただ忘れ物をとりにいっていただけですよ。桜庭くんこそ、なぜ中に?」  俺はまさか落ち込んでとは言えなくて、「トイレ」とごまかした。 「あの人、私に声をかけてきたんです」  俺は日下部さんの一言に反応した。  おいおい、ナンパか…?  だいたい、なんで修学旅行中の高校生が泊まってるホテルにヤンキーがいるんだよ…。 「なんで言われた?」 「いえ、あの…遊ぼうと言われました。断りましたけど」  …なんだそいつ。サイテーじゃねぇか。 「でも、断ったら追いかけてきたんです。じゃあせめて部屋に止めろと…」 「そこで日下部さんは逃げたわけだな。よかった。日下部さんの判断は正解だよ」  日下部さんはうなずいて、話を進めた。 「けれど、私がどれほど逃げても、相手は構わず追いかけてくるんです。振り返ると、相手の手にはライターが…」  …とんだあぶねーやつだ。  そんなやつが日下部さんに近づくなんて…  だって日下部さんは大人びているが女子だ。か弱い女子に手を出すやつはあぶない。 「もう来ないと思いますが…って!桜庭くん!来てます!逃げてください!」  はっとして振り向く。  …金髪ピアスの、ヤンキーが仁王立ちしてこっちを睨んでいた。 「よぉ、嬢ちゃん…なんだテメェ?嬢ちゃんの男が?失せろ!命が惜しければ、な…」  ヤンキーはニヤリと笑ってライターを掲げた。  唾を飲み込む。  恐怖が身体中を走る。  相手は成人男性だ。  下手したら殺されるかもしれない。  それに俺はーーーー。  日下部さんを守りたい。  日下部さんをこんな男に取られて、死ねない! 「おりゃあー!」  俺は雄叫びをあげ、油断していた相手の腹部に強烈なパンチを叩き込んだ。 「ぐぁ…うっ!」  相手は悲鳴をあげ、倒れ込んだ。 「ふぅ…」  俺はため息をついて日下部さんに聞いた。 「大丈夫?顔が真っ青だけど…」 「桜庭くんこそ…大丈夫ですか?」  俺は得意になって答えた。 「大丈夫だよ。これくらい」  …と、思ったのも束の間。 「おい…ナメてると潰すぞ!死ね!」  相手は血走った目をしてこっちに殴りかかってきた。  …やばい、やられる…!  …その時。 「全く。ナメてるのはそっちだっつーの!」  威勢のいい、凛とした声が隣から聞こえた。  嘘だ、叫びたくなる。  そんな俺の心の叫びを待たずに、日下部さんは相手がいる方に走り込み… 「とりゃあぁぁぁぁっ!」 「うっ…うぐっ…痛えぇぇぇ!」  ヤンキーのやつは、めちゃくちゃ痛そうにしてるけど。  日下部さんは相手の頬に一発ビンタしただけだった。  …どんだけ強いんだよ…。 「はぁ。これだからヤンキーは。強くもないくせに喧嘩売りやがって。迷惑だっつーの!ザコはさっさとくたばれって話!」  俺の胸の中で、何かが弾けた。  これが多分、キュンとするってやつだろう。  日下部さん、かっこいい…  俺は日下部さんのギャップに、まんまと惚れてしまった。
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