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考えた末、ご機嫌斜めなアイツに食べさせてやることにした。
俺は脱衣所に行き、弁当の中身を洗濯機の口へと運んだ。その瞬間、水面が盛り上がってバシャバシャと音を立てて暴れた。大きな波が生まれて、荒れ狂う波が洗濯槽に収まりきれなくなり、しまいには外へ跳ねるように飛び出した。水の塊を俺の着ているグレーの服が一気に吸収して、暗い色を滲ましていく。濡れたままだと気持ちが悪いので、その場で服を絞った。
改めて洗濯機を覗いてみると、ボロボロになったチキン南蛮の衣を魚が啄んでいた。表面上で確認できるだけでも十五匹程度。ひしめき合っている。
この魚は……いったいどんな名前の魚だろうか? 調べようと思い、押し入れから図鑑を引っ張り出してきたが、あまりの分厚さに読むのが躊躇われた。
結局、弁当を食べられず空腹な俺は、洗濯機の中の魚を食べることにした。自分で味を確かめれば、きっと名前もわかるだろう。なぜなら、俺は寿司が大好物だからだ。
洗濯機の前に戻ると、魚の姿が見当たらなくなっている。どこへ消えてしまったのだろうか。
仕方がないので、もう一度弁当屋へ向かい、チキン南蛮弁当を購入した。
家に帰って一目散に洗濯機のもとへ駆けつけ、弁当の中身を流し込んだ。水面が盛り上がる。とてつもない水飛沫とともに、何匹もの魚の頭が露わになった。俺はその中の一匹の頭を鷲掴みにして、外へ放り出した。最初は床の上で高く跳ねていた魚も、段々と動きが鈍くなってきた。そろそろ食べよう。
しかし、ここで大きな問題が発生した。魚の捌き方を知らない。下手に料理した魚を食べることには抵抗がある。なぜなら、俺は寿司が大好物だからだ。
素材本来の味を楽しむのであれば、そのまま齧り付くのも一興。生魚を頭から尻尾まで喰らい尽くした。腹は満たせたが、とても生臭くて不味かった。それに加えて、どんな魚かもまるで見当がつかない。
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