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「理解する必要などない。お前は、俺が面倒なことを全部こなすだけの道具に過ぎない」
道具であるのならば、私の代わりはいくらでもいそうですね。
「また死にたいとでも言いだすのだろう。それでまた、結局は死なないオチだ。感情の芽生えた道具は欠陥品だな」
死にたくないから死なないわけじゃない。死ぬ勇気がないわけでもない。あなたを生かすためには、死ねないのです。
「お前といると息が詰まる。苦しい。早く消えてくれないか」
苦しいのは、私があなたとの世界を愛で満たしてあげているからです。あなたが私の愛に溺れているからです。
「助けてくれ」
私は現在進行形であなたのことを救っています。あなたの弱さを私の愛情で包み込んであげているのです。ほら、窓の外を見てください。まだ泳げているようですね。私がいなくなったら、あなたの弱さに居場所がなくなってしまいますよ。
リビングの窓一面にべっとりと張り付いているものが最初は何かわからなくて、じっと目を凝らした。そして、ようやくその正体を理解したとき、ガラスにひびが入った。そのまま窓は亀裂に沿って爆ぜて、俺は外から押し寄せてくる波に飲みこまれた。
あれは、大きな大きな魚の尾ひれだった。
目が覚めたとき、外はすっかり明るくなっていた。浅い睡眠だったが、俺の頭は最高に冴えている。すぐによい作戦を思いついた。その名も「類は友を呼ぶ作戦」。あいつらだって仲間がほしいだろう。こちらが魚の先客を用意すれば、誘い出されて姿を現すに違いない。
さっそく商店街へと出向く。魚を売っている店に辿り着いた。氷の上に魚の死体が並べられている。生きている魚が一匹としていないのは誤算だったが、初対面でも臆さずに仲良く接することのできそうな、見た目の派手なやつを三尾選んで買っていくことにした。
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