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帰宅時には、身体が疲れ切っていた。しかし、休むことはなく、すぐさま洗濯機に一尾ずつ滑り込ませてみた。
三尾とも底に沈んでしまった。昨日の弁当の残骸と一緒に、底で寝そべっている。例の魚たちは現れなかった。
俺はイライラした。ここまでしても現れない奴らに腹が立った。その末に、洗濯機を勢いよく蹴りつけてしまった。洗濯機は苦しそうに呻き声をあげる。俺は我に返って抱きつき、泣きながら謝った。
洗濯機は震えていた。最初は痛みを堪えているのだと思っていたが、その震えが規則正しいものだと気づいて、徐々に違和感を覚え始めた。
抱きつくのをやめて立ち上がると、洗濯機の中の水が渦を巻いている。蓋を閉めていないのにもかかわらず、運転を再開していた。
そこで俺の目に映ったのは、渦に身を任せ、泳ぐように流されている魚たちだ。それぞれの鱗の色を輝かしている。それはさながら、屍に命が吹き込まれているかのようであった。とても綺麗だ。俺の買ってきた三尾の魚が、紛れもなく三匹の魚になっていた。
一時の魔法だった。洗濯機は三十分ほど経った後に運転を停止した。
静まり返った部屋。その中で俺は密かに興奮していた。可能性を感じたからだ。もう一度、会いたい人がいた。
俺がリビングから引きずってきたのは、かつての恋人だ。元通りにしてくれると思った。
そのままの状態で入るか不安だったので、俺は彼女をバラバラに分解してから、洗濯機の中に押し込んだ。しかし、蹴っても叩いても、どのボタンを押しても、もう洗濯機が動くことはなかった。
洗濯槽は彼女でいっぱいに満たされているのに、俺の心は満たされないままだ。
そこで初めて、俺は彼女に依存していたのだと理解した。我に返った俺の眼前にあるのは、グロテスクな箱。見るも無惨な光景だ。
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