中飛車の恋

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 その冬、僕は高校の同窓会に呼ばれた。自分を無視していた元クラスメートと会う気なんてなかったのだが、司法試験合格を知った幹事に昔のことを謝りたいと懇願されて参加を決めた。  同窓会当日、幹事の元クラスメートは僕に謝罪してから尋ねた。 「そう言えば、みどり先生のこと聞いてるか?」 「いや。先生がどうかしたの?」  彼が語ったみどり先生の近況に僕は自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。体の芯から震えが来るのを止めることができない。そして、自分の愚かさを思い知った。  ――なんてことだ。僕はまだこんなにみどり先生のことが好きだったんだ……。  その場で同窓会を退席すると、先生が入院しているという総合病院へタクシーで向かった。  気づくと高校時代のみどり先生との切ない記憶の海の中にいた。その海の荒波が二十代の大人としての外殻を飲み込みバラバラに押し流す。気づくと僕はただの高校生に戻っていた。ひたすらにみどり先生を想い、降りしきる雨の車内で体を震わせた。
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