第二章 再会

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 ――……あの人、なんだったんだ?    希望は外に出て初めて、自分がいたのが中心街のホテルだったと知った。  迷うほどに大きなホテルなのに他の宿泊客どころか、スタッフの姿も見えないのが不気味だった。  出入り口の警備員には不審な目で見られたが、もう一人の警備員が耳打ちをすると慌てて希望から目を逸らしていた。    気になるが逃げる方が先だ、と希望はホテルが見えなくなるまで走った。  何度も後ろを振り向き、周囲も警戒していたが、誰かが追って来る様子はなかった。    中心街からも離れて、見慣れた景色が見えてきたところでようやくほっとする。    ――……あれ、服…俺のじゃない……?    ほっとしてみると、服は男たちに破り裂かれたことを思い出した。這い回る手の感触が生々しく蘇って、吐き気と怒りが込み上げてくる。    ――……でも、もうあいつらはあの人に…。    肌触りの良い生地は少し大きめで、ゆったりとしている。ふわりと香るのは清潔感のある石鹸の香りだが、その奥に微かに、あの男の甘くて苦い煙草の香りを感じる。  ぞわぞわと込み上げてくる熱に気付いて、振り払うように首を振った。    ――早く帰りたい。全部洗い流して忘れたい。   「希望ちゃん? 無事だったのか!」 「…?」    よろよろと歩き出した希望を引き留めたのは、店の常連客だった。    ***   「…なんで…」    店の前で希望は呆然と立ち尽くした。  店には、――否、店があったはずの場所には焼け落ちた看板が転がっていた。    真っ黒になった瓦礫からは、まだ焦げた匂いがする。いつも賑わっていた店も希望が部屋として使っていた屋根裏部屋付きの倉庫も、ほとんど崩れ落ちてしまったようだ。  壊れた家具らしきものや焼け残った物品が散乱しているが、店主や常連客が希望の帰りを優しく待ってくれた日々の面影は何も感じられない。  ここで過ごした日々を全て失ったのだという事実を見せつけられているようで、胸が押し潰されそうだった。    希望を連れてきてくれた常連の話では、火事が起きたのは5日前の夜だった。  周囲の建物にも燃え広がり、死傷者も出たという。    驚いたことに、彼らの話では、希望がいなくなったのは一週間前の夜のことだったという。  夜に出かけて、遅くとも翌日の昼には帰ってくる希望が2日経っても帰ってこないことで店主は早々に店を閉めて、探しに出ていた。  その留守中に火事が起きたらしい。   「火事が起こる数日前の夜に、あの男を見たというやつもいるんだ」 「あの男…?」 「ほら、あいつだよ! ずっと希望ちゃんに付き纏ってた、自称マフィアの下っ端!」 「え…あっ…」    その男の最期、凄惨な光景を思い出して、希望はこみ上げる吐き気を抑えようと口を手で覆った。   「警察も探してるらしいんだが、誰も姿を見てないんだ。もしかしたらもう高飛びしてるかも…」 「やっぱりあいつが?」 「あの野郎、こんなことして逃げやがって…!」 「…っ…」    住人や常連客は次々に男への憤りを口にする。  だけど、あの男はもうこの世にはいない。希望はそれを言葉にすることができなかった。   「でも、希望ちゃんが無事で本当によかった」 「……うん」 「どこにいたんだ? それにその怪我は…?」 「……大丈夫です」    少し不思議そうに顔を見合わせながらも、ほっとしたように微笑む彼らを前にして、希望もぎこちなく笑顔を返した。    ***
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