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金も衣服も、贈り物も全て燃えてしまっていた。何も残っていなかった。
残ったのは肌身離さず持ち歩いていた、母の形見だけだ。
希望はとぼとぼと街を歩く。
――でも、良かった…あの人に取られてなくて……。
ほっとして胸の十字架を握り締めるが、現実を思い出して、また大きなため息をついた。
――あれから一週間も経ってたなんて…全然記憶がない。何してたんだろう、俺……。
でも、なんで火事なんか……まさか、あの人が……?
常連たちの話を聞いて、希望は大家の安否が気がかりだったが、彼は三日前にすでに街を出ていた。最後まで希望を気にかけていたと聞いて胸が痛んだ。
――おじさん、元気だといいな。全然恩返しできなかったなぁ。俺が街に来て途方に暮れてた時に、おじさんが一緒に泣いてくれた。
歌の仕事が増えてから、部屋代だけでも渡そうとしたけど、その金を貯めて、故郷に帰りなさいって言ってくれたんだ。
店主の優しさを思い出して、希望は決意する。
――故郷に帰ろう。今度こそ。
お金を貯めて、故郷に帰って、教会で静かに暮らそう。
もう誰にも見つからないように。
隠れていれば、歌わなければ、俺を見つける人なんていない。
教会を出なきゃいけなくなったのはマフィアのせいだし、怖い目にもあったけど、故郷を離れて、いろんな街で、いろんな人達と出会えたのは楽しかった。
こうして色んな世界を見て回るのも悪くないかなって思ってた。
――……でも、もういいや。
決意と諦念を胸に、希望は街に繰り出した。
***
「悪いが、今日はもう終いなんだ。帰ってくれ!」
「え、どうして、あの」
バンッと大きな音を立てて扉が閉ざされた。
扉の前で、希望は肩を落として、またとぼとぼと歩き始める。
――……これで何件目だろう?
生活を立て直すために街に繰り出した希望だったが、どの店でも、家を借りることも服を買うことも食事をとることも断られてしまった。
売り切れだ、店じまいだ、貸せる部屋も泊められる部屋もない、と様々な理由で追い出されてしまう。
正直に無一文であることを伝えて、必ず後で払いますとお願いはしてみたが、相手だって商売だ。店主のようにほとんど無償で衣食住を提供してくれる人は稀だろう。
――今はお金もないし…仕方ないよね…お金稼いでから出直さなきゃ。でも、俺が働ける場所なんて他には……
『希望の歌聞くとよく眠れるの。絶対よ。おねがいね…?』
はっとして希望は顔を上げた。
拉致された日に会う予定だった常連の娼婦との約束を思い出して、希望は居ても立っていられずに娼館へと向かった。
***
「……出ていった?」
そうだ、と娼館の用心棒でもある男が告げる。
「そういうわけだから帰ってくれ」
「…あ、それならみんなに挨拶を」
「必要ねぇ」
「え? でも、あの」
最後まで希望の顔を見ようとはせず、男は店の中に消えていった。取り付く島もない。
希望はしばらく呆然としてから、ようやく歩き出した。
――お姉さん、娼館出れたんだ……。……良かった。
……でもお別れを言いたかったなぁ。今はちゃんと眠れてるといいけど……。
***
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