第二章 再会

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「……悪いが、もう来なくていい」 「そんな……!」    戸惑う希望に、店主は目を背ける。    可愛がってくれていた娼婦との突然の別れを悲しみながらも、他にも歌を求める人々がいることを思い出し、再び仕事を探し始めた。    しかし、どのバーや娼館に赴いても、何故か次々と仕事を断られてしまう。  最後に立ち寄ったステージバーのオーナーも、希望が近づくと警戒の目を向けた。    これまでのバーや娼館と同じだ。ただ、奥にいる店の人達がなにか言いたげに自分を見つめていた。  世話になっていた店が火事になったことを思い出す。ここには、自分を追ってライが来ていた。火事にはなっていないが、別の形で何らかの損害が出たのかもしれない。   「……何かあった? 俺のせい? ごめんなさい」    俯く希望から目を背け、オーナーは耐えるように眉を寄せた。   「ッ…今月分の金はやる! もう来るな!!」 「あッ…!」    オーナーは金の入った袋を希望に押し付けて、突き飛ばした。  希望はバランスを崩して倒れる。オーナーはハッとして駆け寄ろうとしたが、何かに阻まれるようにぐっと踏みとどまった。    希望はショックを受けて呆然としていた。散らばる金も、手や膝を擦り剝いてしまったことも、どうでも良かった。    ここのオーナーは希望が客とトラブルを起こしても庇ってくれて、ずっと歌わせてくれた。金の入った袋を持ってみると、いつもより重く、それが彼の最後の情けのように思えた。    そんな優しいオーナーがこんなことをするなんて、よほどのことがあったに違いない。  それがショックで、悲しくて、希望は立ち上がれなかった。   「……いっぱい歌わせてくれたのに迷惑かけてごめんなさい」    希望が小さく呟くと、オーナーが表情をぎゅっと歪め、耐えるように拳を握り締めた。   「……もう無理だ!」 「馬鹿やめろ!」    遠巻きに見ていた人々の中から、一人の男が希望に駆け寄ろうと飛び出した。しかし、傍にいた男に止められている。希望は驚いて顔を上げ、二人を見つめた。   「だってこんな…俺には耐えられねぇ…!」 「馬鹿野郎、死にたいのか!」    二人の争う声に、希望を気にかけながらも目を背ける人々。  希望はようやく違和感に気付いた。    ――……何が起きてるんだ?    希望は愕然とした表情で、座り込んだまま動けなかった。  しかし、争っていた彼らがはっとして急に動きを止める。    ――……何…?    怯える人々の視線の先を目で追って、希望は気付いた。誰もが希望から目を背ける中で、そうしない男が二人いた。  建物の物陰の身を潜めているのは、ライの部屋から逃げ出した時に目撃したスーツ姿の男たちだった。    ――いつから……!?    希望も警戒はしていたつもりだった。  しかし、彼らにとっては、そんなもの大したことではなかったのだろう。    ずっと気付かせなかったのに、今はあえて姿を見せた。  その意味を理解できないほど、希望は愚かではなかった   「…ッ…!!」    希望はすぐに立ち上がって、その場を離れた。    ***
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