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街の中心街には芸術と金を惜しげもなく注ぎ込んだような豪華な建物が立ち並ぶ。
その中で、それは静かに佇んでいた。
荘厳な正面装飾の上には、彫刻が施されたバルコニーが視線を惹く。壁には、美しいレリーフが繊細で重厚な雰囲気を醸し出している。
建物の一番上に乗るドーム状の部分には小さな窓があるが、暗くて中の様子は伺えない。
芸術的な街並みの中、決して目立たず、それでいて決して見劣りはしない。
ただ、頑丈な鉄柵に守られた重厚な門と、玄関の扉、そして鋭い眼差しの警備の存在が、この建物がただの市民の所有物ではないと示していた。
車は門の中に入って、建物の前で止まった。
車を降ろされた希望は見たことのない美しい建物に目を奪われた。
立ち止まった希望を男達は引き摺って連れて行く。
建物の中に入って、希望はまた目を輝かせた。
白い大理石の床に一瞬目が眩むが、壁には宗教をモチーフにしたであろう壁画が一面に、吹き抜けの高い天井にはシャンデリアが輝き照らしている。
――……ふわぁ、綺麗…!
希望は一度だけ神父に連れて行ってもらった大聖堂のある教会を思い出した。
そこには白い床と壁と天井には壁画があって、シャンデリアの代わりにスタンドグラスから射し込む光が色とりどりに輝いていた。
――あれはどこだったっけ。……もう一度見に行きたいな。
「おい」
冷たい声で現実に引き戻された。金髪の男が鋭く希望を睨み、「さっさと歩け」と強い力で腕を引かれてエレベーターに押し込まれた。
エレベーターが最上階で開くと、美しい模様のカーペットが敷かれていて、薄暗い廊下が何処までも続いているように見えた。
さっきまでの白く輝く空間に比べると、薄暗くて不気味な雰囲気が漂っている。
――この先にあの人が……?
そう考えると、背筋がざわりと震えた。
近づくにつれて不安が強まり、恐怖が希望の心を包み込んでいく。
――嫌だ、会いたくない、嫌だ…嫌だ…
やだ!!
「――ッンン!!」
「うぉッ、てめ! おい、暴れんな!」
希望は思わず叫び声を上げ、暴れ始める。
猿轡で声にはならないが、突然暴れ出した希望に、希望を抑えていた赤毛の男も不意をつかれて慌て、手が離れた。
振り払って逃げ出そうとしたが、金髪の男に容赦なく頭を掴まれ、扉に叩きつけられてしまった。
「うぐ、うぅ…っ」
「おいおい、やり過ぎ…」
赤毛の男が呆れたようにため息をつくが、金髪の男は舌打ちし、苛立ちを露わにする。
「…いいか、小僧。俺達も暇じゃねぇ。これ以上お前に構ってられねぇから、一つだけ教えておいてやる」
床に倒れて痛みに呻く希望の胸倉を掴み、睨みつけた。
「あの人は生まれながらのサディストだ。殺さずに楽しむ方法をいくらでも知ってる。お前がここを生きて出れるかどうかは、あの人次第。
……わかったな? 気に入られるしかないんだよ」
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