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『僕は旅に出ようと思っていた』 父の取引先の男爵家の子息達が、流行病で亡くなってしまい、末っ子だった僕は男爵家に養子に出された。 男爵家の子供達はみな優しく、商人である父について家に行くと、本当の兄弟のように遊んでくれた・・・彼等がいなくなって寂しかったが、男爵様はもっと辛かっただろう。 もともと男爵様に面識があったのと、学問が多少出来たこともあって、僕は男爵様の養子になった・・・けれど、1つだけ問題があった。 僕は『オメガ性』だったのだ。 現在、バース鑑定は行っていない・・・昔に比べてオメガ性は、生まれにくくなっていて『都市伝説』なんて言われていたりもする・・・今となっては人口の0.0001%しか存在せず、国内に1人いるかどうか・・・というところであった。 『僕は旅に出ようと思っていた』 話を戻そう・・なぜ旅に出ようと思ったのかと言えば、王子殿下に婚約を迫られているからだ。 僕は男爵家を継ぐべくして、6才から屋敷で厳しい教育を受けてきた・・・だが、15才になって社交界デビューしてから、どういう訳か同い年の王子殿下に気に入られていた。 もともと他家との関わり合いに明るくなかった男爵家は、王子殿下の『ご執心』に何も言えなかった。だから婚約の話になったとき、天地がひっくり返るほどビックリしたのだ。 『僕の側へ来て欲しい』 僕は首を捻った・・・側近としてだろうかと思ったが、従者に「それは恋文ですよ」と言われるまで気がつかなかった。 それに加えて、最近『オメガ性』との診断がくだされた。医者の話によると、僕は男性を惑わすフェロモンを振り撒いているらしい・・・だからか。 僕は王子殿下の腑に落ちない求婚に納得した。殿下は僕の『オメガ性』のフェロモンに振り回されていたのだ。 殿下に申し訳なく思いつつも、医者からは「抑制剤を飲めば大丈夫」と言われていたので、これからは大丈夫だろうと思った。 だから殿下の態度に・・・僕は何の疑問も抱いていなかった。
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