172人が本棚に入れています
本棚に追加
城への呼び出し
その後、殿下は呆然とした僕にキスをして部屋を出て行った。
(待って、待って、待って‥‥‥。僕には、何処まで本気で‥‥‥。他に何人恋人がいるの?)
僕はベッドの中で、しばらくそのまま蹲っていたのだった。
*****
数日後。僕は殿下から、城に呼び出しを受けていた。渡したい物があると言っていたが、殿下は忙しかったのか、結局は会えなかった‥‥‥。僕は中庭のベンチに腰掛けて、殿下の用事が終わるのを待っていた。
「あれっ‥‥‥。きみは‥‥‥」
「あ‥‥‥」
聞こえてきた声に振り返ると、そこには社交界デビューした時に、話しかけてきた赤髪の青年が立っていた。ここ数年で鍛えたのか、背は追い抜かされ、筋骨隆々とまではいかなくとも、ガッシリとした体格になっていた。
「驚いた‥‥‥。殿下と待ち合わせ?」
「‥‥‥はい」
「待っている間、僕とお茶しない?」
「え‥‥‥。はぁ」
赤髪の青年は確か伯爵令息だったはず‥‥‥。自分より身分が上の相手に、どうしようかと迷っていると、手を引っ張られた。
「おいで‥‥‥」
「あのっ‥‥‥。もうすぐ、殿下が‥‥‥」
赤髪の青年は、僕の手を引くと急に走り出した‥‥‥。廊下を進みながら、何回か曲がると近くにあった部屋へ連れ込まれる。
「あの、こんなとこで‥‥‥。お茶は‥‥‥」
「お茶より、もっといいことをしよう?」
「??」
「どうしたの?」
「あなたは‥‥‥。たしか、テオ・フォルトナー」
「今、思い出したの? 名前なんていいから、今を楽しもうよ‥‥‥」
テオ・フォルトナーは僕を抱き寄せると、腰を撫でていた。こんな時、怖くて声を出すことも出来なければ、逃げ出すことも出来なかった。
「何をしている!!」
「で、でんか‥‥‥」
部屋へ入ってきた殿下は、僕達を見て怒り狂っていた。僕が涙目で殿下の元へ駆けて行くと、殿下は僕を抱き寄せてくれる。
「貴様!!」
「やだなぁ‥‥‥。誤解ですよ。私がステファン様に誘われたんです」
「‥‥‥そうなのか?」
僕が首を横に振ると、殿下は魔物を見るような目で彼を睨みつけ、腰にある剣の柄を握っていた。
「不敬罪で、この場で切り捨てるぞ‥‥‥。私の気が変わらないうちに早く行け」
赤髪の青年は、青くなりながら走り去って行った。レオンハルト殿下は、ため息をつくと僕の方へ振り返った。
「それで‥‥‥。どうして、こんなことになっているの?」
「すみません‥‥‥。レオン様を中庭で待っていたら、『お茶をしよう』って、声を掛けられて‥‥‥。断れずにいたら、この部屋に無理やり連れて来られたんです。ビックリして‥‥‥。怖くて声が出ませんでした」
「全く‥‥‥。心配したんだぞ。連れ去られる君を見て、心臓が押し潰されそうだった」
「レオン様、申し訳ありません」
「何だか、ついて行ったようにも見えたしな‥‥‥」
「まさか、そんな事は‥‥‥」
「違うのか?」
「違います」
「なら、それをここで証明してくれ‥‥‥」
「証明?」
最初のコメントを投稿しよう!