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商家
いくら国境が近くにあるとはいえ、僕が徒歩で向かった実家の商家は遠かった。夜中から歩き始めて山を越え、町へ着いた時には日が暮れていた。
僕はボロボロになりながら、実家である商家の裏門を叩いた。中から使用人らしき人物が出て来て、事の次第を伝えると実の父が出て来て、僕は門前払いを食らった。
「貴族の家に養子に出したんだ‥‥‥。ここには、お前の居場所はない」
もともと僕のいた国の貴族と言えば、傲慢な人が多かった。逃げ出した貴族を匿って、無事な商家など一つもない。
「あの‥‥‥。今晩だけでもいいので、泊めてもらえないでしょうか?」
歩き通しだったせいか息は上がっており、何だか身体が怠くて仕方がなかった。
「お前‥‥‥。熱があるのか?」
父は僕の額に手を当てると顔を顰めていた。意識が朦朧としてきて、父の顔が歪んで見える。
「いいから中に入れ‥‥‥。病人を放っておけるほど、厚顔無恥じゃねぇ。母さーん、湯はあるか?」
父にそう言われた瞬間、目の前が歪み‥‥‥。崩れ落ちるように、その場で意識を失っていたのだった。
*****
翌朝。目を覚ますと、そこには何故か殿下がいた。
「‥‥‥でんか?」
「目が覚めたのか‥‥‥。大丈夫だ。私がついている」
「ありがと‥‥‥。ございます」
「水は飲めるか?」
「はい」
「後で医者から説明がある。すまないが、私はもう行かなくてはならない‥‥‥。この薬を飲めば楽になるそうだ」
僕は殿下から薬を受け取ると、水で押し流すように飲み込んだ。
「ありがと、ございます」
「良かった‥‥‥。元気になってきたな」
殿下は僕の手を握り、頭を撫でていた。薬を飲んだせいか、だんだん眠くなり‥‥‥。引きずり込まれるように眠りに落ちていったのだった。
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