3.兄嫁

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私たちは翌日、いつものベンチで待ち合わせ、高梨が用意してくれた検査薬をさくらに渡し、さくらは検査をするため、緊張した様子で屋敷に入って行った。 私は待っている間、さくらの結果が気になってしまい、そわそわと落ち着きなく過ごした。 当事者でもないのに、私も緊張で心もとなくさくらを待った。 なかなか戻ってこないさくらに、気が気でならなかった。 どうしたんだろう? こんなに長い時間待っているのに、一向に戻ってくる気配がない。 さくらが体調を崩して、倒れているのではないか。 それとも絶望に駆られて、悲しんでいるのではないか。 考えるほどに胸が痛んでくる。 とても長く感じる時間を置いて、さくらが屋敷から戻って来た。 たくさん泣いたのか、目が真っ赤に腫れていた。 そんな様子に居たたまれなくなり、さくらに駆け寄って声を掛けた。 「遅かったから心配したのよ。ああ、こんなに目が腫れて・・・」 頼りない様子のさくらがどうしようもなく儚げで、労りの気持ちでさくらの肩を優しく支えるように意識しながら、そうっと包み込んだ。 「ごめんなさい、心配かけて。・・・赤ちゃん、出来ていたわ」 「・・・!!」 私は反射的にさくらに抱き着いた。 「やっぱりそうだったのね・・・!葵さんとの子が、ここにいるのね?」 さくらのおなかの中に小さな命が育っていることを思うだけで、胸がいっぱいになる。 「でも・・・」 さくらはいろんな感情がごちゃ混ぜになっているのだろうと感じた。 込み上げる涙を堪えることなく、感情の赴くまま、顔をクシャっと歪めて泣き出してしまったのだ。 いつも穏やかに微笑んで、落ち着いた様子のさくらが、こんなに子供のように泣くなんて・・・。 でも、さくらはこの現状にしっかりと向き合っているようだった。 私はこの後どうするのか気になって、色んな感情が交錯する心を何とか押し殺しながら、さくらの今後についての考えを静かに確認しようと次の言葉を注意深く待った。 「うん、雄介さんには妊娠を伝えて、離婚を切り出すつもり」 その言葉を聞いて、瞬間的に心配が胸に押し寄せて来た。 「そううまくいくかしら。堕ろせって言いかねないわよ」 それでもさくらは、しっかりと言葉を紡いだ。 「でも、このまま隠し通すことは出来ないし、検診にもいかないといけないし、説得するしかないわ」 私は心配だったけれど、さくらの言う通り、このまま隠してもおなかは大きくなっていくし、隠し通せるわけはないと同調した。 「とにかく私は、何が何でもこの子をしっかりとおなかで育み、産むことだけを考えたい」 検査をしに行く前までは、あんなに不安そうだったのに、このしっかりとした様子は何なのだろう。 このほんの僅かな間で、何だか急に大人びて帰って来たように感じられる。 さくらのその身体に、新しい命が宿ったのだと確信した瞬間、こんなにも強烈に親としての自覚が生まれるのだろうか? 「そうよね」 私は何とかこう返すだけで精一杯で、同い年のさくらがこんなに大人な表情を見せていることに関して、気後れするばかりだった。
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