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丁度そんな矢先、村越百貨店の創立70周年パーティーに参加されていた、中村屋百貨店のご子息である、雄介様に見初められてしまったさくら様に、縁談が持ち上がった。
村越の苦しい財状を逆手にとって、政略結婚を持ち掛けて来たのだった。
さくら様は大好きな御両親からそのことを聞かされ、お心を痛めて、その後村越の家からこっそりと姿を隠されてしまった。
村越家の保安部が、中村屋に知られないように、密かに行方を追っていたようだったが、見つける事は出来なかったようだ。
しかしそれもわずかな間に、中村屋側に知られることとなり、縁談報道が世間を賑わせた。
見つける事が出来ないのならば、さくら様から戻るように仕向ける戦略のようだった。
それは見事に当たったようだ。
さくら様がご自宅にお戻りになられたのは姿をお隠しになってから4か月後。
憔悴しきったご様子で、戻るなりご自分のお部屋へと閉じ籠ってしまわれた。
けれどその日の午後、お屋敷の門で騒ぎが起こった。
さくら様を呼ぶ若い男が、突然門の外で騒ぎ出したのだ。
さくら様も閉じ籠っていたお部屋から飛び出し、その男性の許へと駆け出してゆき、それを見かけた俺は、急いでその後を追って、外へと飛び出した。
そこで俺は、真実の愛を目撃した。
本当に愛し合うおふたりが、抗えない現実に遮られて、哀しい誓いをお交わしになる光景。
あんなにも熱い想いを寄せ合っているのに、共に歩めない現実。
それでも僅かな希望を胸に、未来を誓い合う姿。
俺は涙を抑えることは出来なかった。
そんな俺が、まさか自分にも同じように熱い想いを寄せる相手が出来るとは思わなかった。
身の丈に合わない、高貴な方。
自分では釣り合わない。
思いを寄せるだけ無駄だ。
そう思うのに、苦しい。
こんな気持ちが自分に沸き上がるなんて、思いもよらなかった。
でも、一度知ってしまったこの感情を、すでにどうすることも出来ないところまで来ている。
好きだ。
いや、愛している。
けれど、この想いを伝えることは許されない。
彼女はお嬢様で、美しく気高くて、俺なんかでは到底見向きもされないだろう。
俺では、ふさわしくなんてない。
・・・どうして知り合ってしまったのだろう。
こんなの・・・
どうしたら・・・。
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