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「……うん。まさかお前と一緒に月見出来るなんてなぁ」
大阪にいた頃とは比べられない程の多忙さにすれ違う日々が多くなり、どうして己がここにいるのかすら忘れ去ってしまいかけたこともあった一央だったが、それら全てが今の二人のために必要なものだったのではないかと気付き、甘えるように頬を宛てるとしっかりと背中を抱きしめられる。
「お月様に感謝や」
あんなにも大きな月をお前と一緒に見る事が出来る、ただそれだけで幸せなんだと思い出した一央が恋人の端正な顔を見上げつつ小さく笑うとその笑いを己のものにするようにキスをされ、その気持ち良さに思わず目を閉じてしまう。
角度を変えて何度か繰り返されるキスを目を閉じた世界で受け止めては返した一央の脳裏に浮かんでいるのは、綺麗だと褒めた月ではなく、その綺麗な月を一緒に見ようと不器用ながらも優しく誘ってくれた総一朗の端正な顔だった。
ああ、本当にその顔が好きで仕方がないと思いつつも告白する勇気はなく、キスの余韻を覚えながら総一朗の肩にもたれ掛かり、せっかく彼が用意してくれた望遠鏡を使わずに二人ベンチに並んで静かに月を見上げているのだった。
恋人に見上げられていることを知ってか知らずか、いつもよりは美しいと感じられた月がただ皓々と光り、地上を遍く照らしているのだった。
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