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The Moon.ーリアムと慶一朗ー
今日も神経を使うオペを行い、入院している患者への回診などをそつなく熟して一日の仕事を終えて家族が待つ家に帰宅したのは、職場では相も変わらず飄々とした様子で人の波の間を泳いでいるような慶一朗だった。
愛車のステアリングを握り、先日に比べれば遙かに疲労度が増しているが精神的には落ち着いているからか、体感よりも早く家に帰ることが出来た慶一朗は、ガレージのシャッターがゆっくりと上がる時間ですら苦痛には感じなかった。
上がりきったシャッターの向こうには鋼鉄のボディを持つ白馬が鎮座していて、その隣に愛車を停めた後、シャッターを下ろすボタンを押して耳を澄ませる。
家に入るドアの向こうから犬の鳴き声が微かに聞こえてきて、犬を飼い始めてからの習慣になった万が一の家の外への飛び出しを防ぐ行為を今日も行うと、待ち構えているであろう子犬の姿を想像しながらドアを開ける。
「ワン!」
いつもならば足下から聞こえる鳴き声が今日は己の胸元辺りから響いた気がし、何だと顔を上げた慶一朗を出迎えたのは、伴侶の腕の中で激しく尻尾を振りお帰りときっと犬の言葉が理解出来れば言っているであろう鳴き声を上げる子犬ー家に来たときに比べれば一回りも二回りも大きくなったーデュークの歓迎を受けて自然と顔を綻ばせる。
「お帰り、ケイさん」
今日も一日仕事を頑張ってきたようだなと、子犬が吠える声に笑顔でうるさいと言いながら慶一朗に満面の笑みを浮かべたのは、慶一朗よりも一足先に仕事を終えて帰宅していたリアムだった。
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