Paper Moon.ールカとラシードー

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Paper Moon.ールカとラシードー

 街の人々が深い眠りに就き、こんな時間に街をうろついているのはろくでもない奴らだと陰口を叩かれそうな深夜、ラシードが運転する車の助手席の窓に肘をついてぼんやりと外を見ているのは、今日の仕事を終えて帰宅しようとしているルカだった。  今日は週末のみ営業しているアポフィスは休みだったが、裏稼業の売春宿が何かと忙しく、ルカもラシードも指示を与えたり問題解決に奔走する時間を過ごしていた。  それからやっと解放された深夜、今日は家に帰るとルカが半泣きの顔で宣言し、その言葉を実行するためにラシードが周囲の視線を一瞥するだけでルカを愛車に押し込んだのだ。  今日は本当に忙しかったと溜息を吐くルカに少しでも気分転換をして欲しいとの思いから、窓を開けて夏の夜風を車内に取り込んだラシードは、潮の匂いがするとルカが鼻を鳴らしたことに気付いて運転席側の窓も開けて同じ気持ちになろうとする。  ラシードのそんな動きを知ってか知らずか、開け放った窓に子どもがよくやるように手を付いて風を感じていたルカが、今まで感じていたような疲労感を吹き飛ばすような明るい声を上げ、ラシードがチラリと視線を助手席へと向ける。 「わー、今日は月が綺麗だな、ラシード」 「……」  子どもの純真さを声に表すとそのようになるのではと、ラシードと一緒に仕事をしている部下がある時ルカをそのように評したことがあったが、確かにそうかもしれないと今更ながらに部下の言葉に納得したラシードの耳にルカの今度は子どもらしさが皆無の疲れ切った声が流れ込み、思わず目を見開いてしまう。  
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