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「月が綺麗なんて思ったの、いつ以来だろ? そもそも月を見る事なんて無かったよね」
自分達は普通ならば皆ベッドの中で夢を見ているかそれとも夢を見ない眠りに就いている時間に漸く帰宅し、太陽が顔を出してもまだベッドの中にいるような一般的な人達とはかけ離れた日常を送っているが、自分達の日常の中に世間の日常である月が入り込んでくることはなく、一体いつ以来だろうと感慨とも達観ともつかない声で呟くルカにラシードはどのような言葉を返すことも出来なかった。
ただ、天空で光る月よりももっと美しく光を放っている存在がすぐ隣にいたため、月の美しさなど気にすることはなかったと過去の己を振り返って気付いたため、小さく咳払いをして口を開く。
「……わざわざ空を見なくてもいつも横にいるからな」
その言葉は無口なラシードにとっては精一杯の告白だったが、風を切る音に負けるほどの小さなもので、半ば背中を向けているルカには届いていないと安堵と失望を綯い交ぜにした顔でラシードがタバコを取り出した時、ルカが肩越しに振り返る。
「ん? 何か言ったか?」
「何も言ってない」
半ば確信が込められているような疑問の声にこちらも告白を繰り返すなど気恥ずかしさから出来ないと内心で苦笑したラシードが小さく首を横に振ると、ルカが窓に背中を向けるように助手席のシートの上で態勢を入れ替える。
「ふぅん?」
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