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「ただいま」
いつ頃からか習慣になっている帰宅の挨拶をこれだけは日本語で交わした二人は、ほぼ同時に手を伸ばして互いの背中を抱きしめて家を出たとき以来のキスをする。
「今日の晩飯は?」
「今日は美味そうなサーモンが手に入った。焼こうと思うけどソースは何が良い?」
それによってそのサーモンの調理方法が変わると教えつつ抱えていた子犬を床に下ろすと、今度は慶一朗に抱き上げろと強請るようにその足に前足を掛けて尻尾を振る。
デュークを抱き上げながら何でも良いと答えた慶一朗だったが、リアムの顔を見て何かに気付き、お前が今食べたいソースが俺が食いたいものだと続けると、歓喜と羞恥が混ざり合った笑みに取って代わられる。
「ダンケ、ケイさん」
「どういたしまして」
だからお前の絶品ディナーを食わせてくれと頬にキスをした慶一朗は、デュークを抱えたまま洗面所に向かい、帰宅後のルーティーンを済ませて出てくる。
「今日の食後のコーヒーは新しい豆を使ってみるか」
「楽しみだな」
家事全般どころか日常生活すら一人ではロクに遅れないと友人達の間で酷評される慶一朗が唯一出来る事である食後のコーヒーを今日は新しく買った豆を使おうと提案すると、リアムが嬉しそうに顔を輝かせながらキッチンでディナーの仕上に取りかかる。
その背中から今日のメシも最高に美味いものだと予感を覚え、腹が減ったなぁと珍しく歌うように呟き、足下をくるくると回るデュークを相手に用意が出来るまでを過ごすのだった。
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