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FULL MOON.ー総一朗と一央ー
ハワイ島の観光地としても有名なヒロの街から車で北上した所にある小さな住宅地を海とは反対に進んだ道の先、ぽつりぽつりと民家が建つエリアのその最も山に違い一軒家の庭に出るドアが静かに開き、小柄な人影が信じられないぐらいに美しく光る月の明かりに照らされながら庭に出てくる。
その人影は以前まで暮らしていた日本では考えられないほどの広さを持つ庭の庇をもうけてある場所の下に置いたベンチに向かうと、そこに腰を下ろして明かりが漏れているリビングへと顔を向けて名を呼ぶ。
「ソーイチロー!」
その声は周囲の静けさの中意外な大きさで響いてしまい、思わず己の口を手で覆ってしまうが、リビングの掃き出し窓を開けて姿を見せた男の顔に思わず見惚れてしまう。
一体いつから付き合い始めて何年になるのかを数えることを止めてしまった為に何年の付き合いになるのか覚えていなかったが、決して短くはない付き合いの中、不意にこうして名を呼んで向けられるその顔を真正面から見ることが途轍もなく羞恥を感じさせる事のように思えてしまい、己が名を呼んでおきながら挙動不審な動きをしてしまう。
「何だ?」
ベンチに腰を下ろして顔を左右に忙しなく振る恋人の動きにまた何かろくでもないことを考えているのだろうと、食後のコーヒーを満たしたカップを両手に庭に出てきた総一朗が内心苦笑し、テーブルに二つのカップをそっと置くと、意を決したような顔を僅かに紅潮させた一央が上空を指さして嬉しそうに笑みを浮かべる。
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