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「月がめっちゃ綺麗!」
今夜の月の美しさは一体どういう理由だ、いや、美しいことに理由など要らないのかなと、ベンチで頬杖をつきながら楽しそうに呟く一央に総一朗が返したのは、彼のロマンチストな気持ちを見事に打ち砕くような現実一辺倒の言葉だった。
「……満月だからな」
総一朗の言葉に慣れているのかうんうんと頷いた一央は、その満月の中で古来日本で語り継がれてきたようにウサギが餅をついているんだろうなぁと、己の空想を糧に元気を得ているような顔でうっとりと呟きつつ己の恋人の総一朗を見つめると、一央の横に腰を下ろした総一朗が同じように月を見上げる。
「絶対、ウサギが餅をついてるんやよなぁ」
「……」
念押しをするように呟く一央に総一朗は返事をしなかったが、それが意味するところを一央は良く分かっていて、大きいと良く言われる目を半分閉ざしてじろりと横を睨む。
「クレーターやって言いたいんやろ?」
「……」
「ホンマになぁ」
東アジアではウサギが餅をついていたり薬草を挽いていたりする月の模様だが、ヨーロッパでは大きな爪の蟹に見えたり、女性の横顔に見えたりするそうだと、ここに移住してから俄然興味を持ち始めた天体について仕入れたばかりの知識を一央が披露すると、よく勉強していると言いたげに総一朗が眼鏡の下の目を細める。
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